日本には「猫島」と呼ばれる島がいくつもあります。人口数十人の離島に、その何倍もの猫が暮らしている。フェリーを降りた瞬間から猫に囲まれる。そんな場所が、この国には実在します。
けれど猫島の本当の魅力は、猫の数ではありません。島ごとに異なる「猫と人間の距離感」にこそ、その島の文化が映し出されています。漁師が猫を神として祀る島。アートと猫が共存する島。静かに猫だけが歩く島。この記事では、日本の主要な猫島を一つひとつ訪ねるように紹介していきます。
田代島(宮城県石巻市)──猫を神として祀る島
島の概要
- 人口:約50人(2022年時点)
- 猫の数:約140〜150匹
- 面積:約3.14km²
- アクセス:JR石巻駅から石巻港へバスで約10分。石巻港から網地島ラインのフェリーで約40分
猫と漁師の歴史
田代島の猫信仰は、江戸時代にまで遡ります。当時、島では大謀網漁が盛んに行われていました。気仙沼周辺から来る漁師たちは島の番屋で寝泊まりし、その食べ残しを求めて猫が集まるようになりました。やがて漁師たちは、猫の仕草から天候や漁模様を読み取るようになったといいます。
ある日、大謀網の重しに使う岩を採取していた漁師の手元から岩が崩れ、一匹の猫が命を落としました。心を痛めた網元がその猫を丁重に葬ったところ、大漁が続き、海難事故もなくなった。これが猫神社(美與利大明神)の起源です。
島のほぼ中央に鎮座する猫神社は、2009年に国土交通省「島の宝100景」に選定されました。田代島では猫は「大漁の守護神」であり、島民にとって猫は家族以上の存在です。なお、島では犬の飼育が禁じられています。
猫と人間の距離感
田代島の猫は、人間を恐れません。かといって、過度にすり寄ってくるわけでもない。港に降り立つと、防波堤の上で寝転ぶ猫、路地をゆっくり横切る猫が目に入ります。漁師の軽トラックの下で涼む猫もいます。ここでは猫が「暮らしの一部」として自然に溶け込んでいます。信仰に裏打ちされた敬意が、猫と人間のほどよい距離を保っているのでしょう。
青島(愛媛県大洲市)──猫だけが歩く、静寂の島
島の概要
- 人口:約5〜6人(2021年時点)
- 猫の数:推定100匹以上
- 面積:約0.49km²
- アクセス:JR伊予長浜駅から長浜港まで徒歩約5分。長浜港から定期船で約30分(1日2便のみ)
島の歴史と猫の繁殖
青島はかつて漁業で栄えた島でした。最盛期には800人以上が暮らしていたといわれますが、過疎化が急速に進み、現在の島民はわずか数名。一方で猫は増え続け、島民の10倍以上の猫が暮らす異様な光景が生まれました。
2014年頃にSNSで「猫の楽園」として拡散されたことで一躍有名になりましたが、島にはコンビニも自動販売機も飲食店もありません。トイレすら港に一つあるのみです。
猫と人間の距離感
青島の猫は、人間に対して驚くほど積極的です。フェリーが港に着くと、何十匹もの猫が一斉に集まってきます。これは、島民が少なすぎて「新しい人間=食べ物をくれる存在」と学習しているからでしょう。
しかし、ここには猫カフェ的な「演出された触れ合い」はありません。あるのは、人間がいなくなった集落を猫が占拠しているという事実だけです。廃屋の軒先、崩れかけた塀の上、草に覆われた小道。猫たちは人間が去った空間を静かに引き継いでいます。
相島(福岡県新宮町)──世界が認めた猫スポット
島の概要
- 人口:約280人
- 猫の数:約160匹
- 面積:約1.26km²
- アクセス:JR博多駅からJR福工大前駅まで約20分。コミュニティバスで相島渡船場へ約10分。町営渡船で約17分
世界6大猫スポットの選出
2013年、アメリカのCNNが相島を「世界6大猫スポット」の一つに選出しました。台湾の侯硐(ホウトン)、アメリカのヘミングウェイ博物館、イタリアのラルゴ・アルジェンティーナ広場、トルコのカルカンと並ぶ評価です。この報道をきっかけに、海外からの観光客が急増しました。
猫と人間の距離感
相島は他の猫島と比べて人口が多く、島としての「生活感」がしっかり残っています。猫は漁港周辺に集中しており、島の内陸部に入ると猫の姿はぐっと減ります。つまり、猫と人間の生活圏が明確に重なっている場所と、そうでない場所がある。
漁港では、漁師が網を繕う横で猫が昼寝をしています。観光客が多いエリアでは人懐っこく近づいてきますが、集落の奥に入ると警戒心の強い猫も見かけます。相島の猫は「観光資源」と「野生」の間を行き来しているような印象です。
島には国指定史跡の「相島積石塚群」や、柱状節理の奇岩「鼻栗瀬」(めがね岩)など、猫以外の見どころも豊富です。
佐柳島(香川県多度津町)──猫が飛ぶ島
島の概要
- 人口:約80人
- 猫の数:推定100匹以上
- 面積:約1.83km²
- アクセス:JR多度津駅から多度津港まで徒歩約20分。フェリーで約50分
「飛び猫」の聖地
佐柳島が猫島として知られるようになったのは、動物写真家・五十嵐健太氏が島の猫を撮影した「飛び猫」シリーズがきっかけです。堤防から堤防へジャンプする猫の躍動感あふれる写真がSNSで拡散され、写真集やテレビ番組で紹介されました。
島の猫が増えたのは約40年前から。それ以前は一家に1匹、ネズミ避けとして飼われていた程度でした。島の生活が豊かになるにつれ、猫も増えていったといいます。
猫と人間の距離感
佐柳島の猫は、のんびりとしています。観光客がそれほど多くない島なので、猫たちは自分のペースで暮らしています。港周辺には人懐っこい猫が多いですが、集落を離れると独立心の強い猫に出会います。飛び猫の撮影スポットとして知られる本浦港周辺が、猫との距離が最も近い場所です。
男木島(香川県高松市)──アートと猫が交差する島
島の概要
- 人口:約150人
- 猫の数:推定数十匹
- 面積:約1.34km²
- アクセス:高松港から雌雄島海運のフェリー「めおん」で約40分(大人510円)。朝8時〜18時まで約2時間おきに運航
アートの島と猫の島
男木島が注目を集めたのは、2010年の瀬戸内国際芸術祭でした。現代アートの展示会場となったことで観光客が増え始めた頃、NHK BSプレミアム「岩合光昭の世界ネコ歩き」で取り上げられたことが決定打となりました。アートの島と猫の島、二つのアイデンティティが同時に立ち上がったのです。
猫と人間の距離感
男木島の猫は、坂道の集落に溶け込むように暮らしています。石段の上、古民家の軒先、アート作品の傍ら。猫とアートと古い家並みが一枚の絵のように重なる場所です。他の猫島と比べてTNR(捕獲・不妊手術・返還)活動が進んでおり、猫の数は管理されつつあります。
ここでは猫は「島のアイコン」の一つであり、アート作品と同じように「見るもの」として存在しています。猫に餌をやるのではなく、猫のいる風景を味わう。そんな距離感が男木島らしさです。
猫島を訪れる前に知っておきたいこと
猫島は観光地であると同時に、島民の生活の場です。訪問する際には以下のマナーを守りましょう。
- 餌やりのルール:多くの猫島では無断での餌やりが禁止されています。事前に各島のルールを確認してください
- ゴミの持ち帰り:離島にはゴミ処理施設がない場合が多く、持ち込んだものは必ず持ち帰りましょう
- フェリーの本数:特に青島は1日2便のみ。乗り遅れると帰れなくなります。時刻表は必ず事前に確認を
- 島民への配慮:民家の敷地に無断で入らない。大声を出さない。島の暮らしを尊重してください
- 猫の健康:人間の食べ物を与えないでください。猫用のおやつも島のルールに従って判断しましょう
猫島マップ──日本の主要猫島一覧
| 島名 | 所在地 | 人口 | 猫の数 | アクセス時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| 田代島 | 宮城県石巻市 | 約50人 | 約150匹 | 石巻港から約40分 | 猫神社・信仰の島 |
| 青島 | 愛媛県大洲市 | 約5人 | 約100匹以上 | 長浜港から約30分 | 猫が人口の10倍以上 |
| 相島 | 福岡県新宮町 | 約280人 | 約160匹 | 渡船場から約17分 | CNN世界6大猫スポット |
| 佐柳島 | 香川県多度津町 | 約80人 | 約100匹以上 | 多度津港から約50分 | 飛び猫の聖地 |
| 男木島 | 香川県高松市 | 約150人 | 数十匹 | 高松港から約40分 | アートと猫の共存 |
引用・出典
- 田代島の猫神社と漁業の歴史:田代島 – Wikipedia
- CNN「世界6大猫スポット」選出:CNNで世界6大猫スポットにも選ばれた猫たちの楽園「相島」- @DIME
- 青島の現状:日本猫島探訪―愛媛県・青島の猫たち― – ヤマト運輸公式note
- 佐柳島の猫の歴史:ネコが飛ぶ島『佐柳島』を満喫する – ジモコロ
- 男木島と瀬戸内国際芸術祭:香川の猫島【佐柳島】と【男木島】- 猫島ガイド
- 国土交通省「島の宝100景」:猫神社 – 旅東北
よくある質問(FAQ)
Q. 日本で一番猫が多い猫島はどこですか?
人口比で見ると、愛媛県の青島が最も猫密度の高い島です。島民約5人に対して猫は100匹以上。人口の20倍近い猫が暮らしています。ただし、絶対数では田代島(約150匹)や相島(約160匹)のほうが多いとされています。どの島も正確な猫の数を把握するのは難しく、年によって変動があります。
Q. 猫島へは日帰りで行けますか?
ほとんどの猫島は日帰り可能です。相島はフェリーで約17分と最もアクセスが良く、博多から片道1時間以内で到着します。男木島も高松港から40分です。ただし、青島は1日2便しかフェリーがないため、滞在時間が限られます。田代島や佐柳島も便数が少ないため、事前に時刻表を必ず確認してください。
Q. 猫島で猫に餌をあげてもいいですか?
島ごとにルールが異なります。多くの猫島では無断での餌やりは禁止されています。田代島では島の管理団体がルールを設けており、青島でもボランティア団体が猫の食事管理を行っています。人間の食べ物は猫の健康を害する可能性があるため、持参した猫用フードであっても島のルールに従ってください。「見て楽しむ」が猫島訪問の基本です。
まとめ
日本の猫島は、単なる「猫がたくさんいる場所」ではありません。田代島には江戸時代から続く猫信仰があり、青島には過疎化と猫の繁殖が生んだ静かな現実があり、相島には世界に認められた猫と人間の共生があります。佐柳島では猫が空を飛び、男木島ではアートと猫が交差する。それぞれの島が、それぞれの「猫と人間の距離感」を持っています。
猫島を訪れることは、日本の離島文化に触れることでもあります。過疎化、高齢化、そのなかで猫と人間がどう共存しているか。フェリーに乗って海を渡った先にある風景は、きっとあなたの猫への眼差しを少しだけ変えてくれるはずです。
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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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