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佐柳島の「飛び猫」を追って。瀬戸内海の猫写真旅

香川県多度津町の沖合、瀬戸内海に浮かぶ佐柳島(さなぎじま)。人口わずか50人足らずの小さな島に、その倍以上の猫が暮らしています。この島を一躍有名にしたのが、防波堤を飛び越える猫たちの写真――通称「飛び猫」でした。

飛び猫の写真がSNSで拡散されたのは2010年代半ば。以来、佐柳島は「猫が空を飛ぶ島」として、国内外の猫好き・写真好きの巡礼地になりました。この記事では、佐柳島の歴史と文化、飛び猫が生まれた背景、島へのアクセス、そして訪問時に知っておくべきことを記録します。

目次

佐柳島とは――塩飽諸島の静かな離島

佐柳島は、瀬戸内海の塩飽(しわく)諸島に属する島です。行政上は香川県仲多度郡多度津町に属し、多度津港の北西約14.8kmに位置しています。面積は1.83km²、周囲6.6km。南北に細長い地形で、島の南に本浦(ほんうら)港、北に長崎港の二つの集落があります。

島の歴史は古く、豊臣秀吉の時代に制定された「人名(にんみょう)制」のもと、隣の高見島から7人の人名が本浦に移り住んだのが集落の始まりとされています。長崎集落には、広島県福山や真鍋島からの移住者が入植しました。塩飽諸島はもともと水軍・海運の要衝であり、佐柳島の島民もまた海とともに生きてきた人々です。

幕末には、佐柳島から数名の島民が咸臨丸の乗組員に選ばれ、勝海舟らとともに太平洋を渡ってサンフランシスコに到達しています。小さな島から世界へ。その歴史は、島の誇りとして今も語り継がれています。

両墓制――島に残る独特の葬送文化

佐柳島を語るうえで欠かせないのが「両墓制」です。これは、遺体を埋葬する「埋め墓」と、参拝のための「参り墓」を別々に設ける葬送の風習で、日本各地にかつて存在しましたが、現在ではほとんど消滅しています。

佐柳島では、本浦・長崎の両集落に両墓制が現存しています。特に長崎集落の埋め墓は、1965年(昭和40年)に香川県の有形民俗文化財に指定されました。佐柳島の埋め墓の特徴は、一般的な霊屋(たまや)を建てるのではなく、木を削り出して作った人形を墓標として立てる点にあります。海風に晒されて風化した木の人形が並ぶ墓地の景観は、瀬戸内の離島文化を静かに物語っています。

猫の島として知られる佐柳島ですが、こうした文化遺産もまた、この島を訪れる理由のひとつです。

なぜ猫が増えたのか――漁業と猫の関係

佐柳島に猫が多い理由は、他の瀬戸内の猫島と同様、漁業にあります。

  • ネズミ対策:漁師の家や倉庫に保管された漁具・食料をネズミから守るために猫が飼われた
  • 漁港の残魚:漁港に揚がる魚の残りが猫の食糧となり、港周辺に猫が定着した
  • 島の環境:天敵となる大型動物がおらず、温暖な瀬戸内の気候が猫の繁殖に適していた
  • 島民との関係:高齢化が進む島で、猫は島民の日常の伴侶となり、大切にされてきた

現在、佐柳島には100匹を超える猫が暮らしているとされます。島民の数が50人を下回るなか、人間よりも猫のほうが多い。それが佐柳島の現実です。特に長崎集落側には約50匹の猫が集中しており、港に降り立った瞬間から猫に囲まれる体験ができます。

「飛び猫」の誕生――防波堤を飛ぶ猫たち

佐柳島を世界的に有名にした「飛び猫」。その正体は、港の防波堤や石垣の間をジャンプする猫たちの姿です。

佐柳島の長崎港付近には、高さ50cmほどの低い防波堤が連なっています。猫たちは日常的にこの防波堤を飛び越えて移動します。その瞬間をカメラで捉えると、まるで猫が空を飛んでいるかのような写真が撮れる。瀬戸内の青い海と空を背景に、四肢を目いっぱいに広げて跳躍する猫のシルエット。そのダイナミックな一瞬が、多くの写真家と猫好きの心を掴みました。

「飛び猫」という名称を広めたのは、写真家・五十嵐健太氏です。五十嵐氏は2010年から猫の撮影を始め、猫がジャンプする瞬間を捉えた写真を「飛び猫」と名付けて発表しました。写真集『飛び猫』はベストセラーとなり、累計10万部を超えています。なお、「飛び猫」は五十嵐氏の登録商標であり、佐柳島固有の名称ではありません。五十嵐氏は佐柳島のほか、九州や千葉県など各地で撮影を行っています。

とはいえ、佐柳島の防波堤を飛ぶ猫たちの写真が写真集の表紙を飾り、SNSで爆発的に拡散されたことで、「飛び猫=佐柳島」というイメージが定着したのは事実です。2010年代後半以降、佐柳島は「猫が飛ぶ島」として国内外から訪問者が絶えない島になりました。

飛び猫を撮る――写真のポイント

佐柳島で飛び猫を撮影するなら、以下のポイントを押さえておくとよいでしょう。

  • 撮影スポット:長崎港周辺の防波堤付近がメイン。猫が自然にジャンプする場所です
  • 時間帯:朝と夕方が猫の活動量が多く、光の角度も写真映えします。日中は猫が寝ていることが多い
  • カメラ設定:シャッタースピード1/1000秒以上の高速シャッターが基本。連写モードが有効です
  • レンズ:猫との距離が近いため、標準〜中望遠(50〜135mm程度)で十分。広角で背景の海を入れるのも魅力的です
  • 姿勢:猫の目線に合わせてローアングルで構えると、跳躍の迫力が増します

ただし、猫を無理にジャンプさせるために食べ物で誘導する行為は、猫の健康を害するだけでなく、島民にも迷惑がかかります。猫が自然に動く瞬間を待つ。その「待つ時間」もまた、猫写真の醍醐味です。撮影マナーについては、猫写真の撮り方。岩合光昭に学ぶ「猫の目線」も参考にしてください。

佐柳島へのアクセス

佐柳島へは、香川県多度津町の多度津港から「たどつ汽船」のフェリーで渡ります。

  • 最寄り駅:JR四国予讃線 多度津駅(高松駅から約40分・740円)
  • フェリー乗り場:多度津港(多度津駅から徒歩約16〜20分)
  • 所要時間:多度津港から佐柳島(本浦港)まで約50分
  • 運賃:本浦港まで690円、長崎港まで790円(片道)
  • 運航本数:1日3〜4便。本浦港は全便停泊、長崎港は一部便のみ
  • 運航会社:たどつ汽船(公式サイト

東京・大阪方面からの場合、JR瀬戸大橋線で四国に渡り、多度津駅で下車するのが最もスムーズです。岡山駅から多度津駅までは特急で約40分。日帰りも可能ですが、フェリーの本数が限られるため、出発前に必ず最新の時刻表を確認してください。天候や海象によっては欠航になることもあります。

島内の過ごし方と注意点

佐柳島は小さな島です。観光施設は限られますが、だからこそ時間がゆっくり流れます。

  • 宿泊:「ネコノシマホステル」が島唯一の宿泊施設。1954年に建てられた旧小学校を改装したゲストハウスで、併設の「喫茶ネコノシマ」ではカフェ利用も可能です
  • 飲食店・売店:島内に商店・自動販売機はありません。飲食物は必ず多度津で事前に購入してください
  • 島の散策:本浦港から長崎港まで徒歩約30〜40分。海沿いの道を歩きながら猫に出会えます
  • 両墓制の見学:長崎集落の埋め墓は県指定有形民俗文化財。静かに見学してください

そして、以下のマナーは必ず守ってください。

  • 猫への過度な餌やり禁止:島民が管理して猫に餌を与えています。観光客による無秩序な餌やりは猫の健康を害します
  • ゴミの持ち帰り:島にゴミ処理施設はありません。持ち込んだものはすべて持ち帰ってください
  • 民家への立ち入り禁止:猫を追いかけて民家の敷地に入る行為は厳禁です
  • 騒音への配慮:島民は数十人の高齢者です。大きな声や集団での騒ぎは控えてください

佐柳島は観光地である前に、島民の生活の場です。猫も島民の家族であり、コミュニティの一員です。「猫に会いに行く」のではなく、「猫と人が暮らす島を訪ねる」という意識を持って渡島してください。

瀬戸内の猫島を巡る旅

佐柳島の魅力に触れたなら、瀬戸内海に点在する他の猫島にも足を延ばしてみてはいかがでしょうか。愛媛県の住民10人、猫100匹。青島という小さな楽園は、島民6人に対して猫が100匹以上暮らす究極の猫島です。香川県の男木島や、岡山県の真鍋島もまた、猫と出会える瀬戸内の島として知られています。

それぞれの島に、それぞれの猫と人間の物語があります。日本の猫島完全ガイド。人口より猫が多い島の地図では、全国の猫島を網羅的に紹介していますので、次の旅の計画にお役立てください。

引用・出典

よくある質問(FAQ)

Q. 佐柳島で本当に「飛び猫」は見られますか?

はい、見られます。ただし、「飛び猫」は猫が常に飛んでいるわけではなく、防波堤や石垣の間を猫が自然にジャンプする瞬間を捉えたものです。長崎港周辺が主な撮影スポットで、朝夕の猫の活動時間帯に訪れると出会える確率が高まります。猫を無理にジャンプさせようとする行為はマナー違反ですので、自然な瞬間を待って撮影してください。

Q. 佐柳島には日帰りで行けますか?

日帰りは可能ですが、フェリーが1日3〜4便と限られるため、滞在時間に注意が必要です。多度津港を朝の便で出発し、午後の便で戻るプランが一般的です。島内に売店や自動販売機がないため、飲食物は必ず多度津で事前に購入してください。ゆっくり楽しみたい方は、ネコノシマホステルでの1泊がおすすめです。最新の時刻表はたどつ汽船公式サイトで確認してください。

Q. 佐柳島の猫に餌をあげてもいいですか?

観光客による無秩序な餌やりは控えてください。島の猫は島民やボランティアによって餌の管理が行われており、観光客が大量のおやつやキャットフードを持ち込むと、猫の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。また、餌で猫を誘導して写真を撮る行為も、猫にストレスを与え、島民の迷惑になります。猫に触れるときは、猫のほうから近づいてくるのを待つのが基本です。

まとめ

佐柳島は、瀬戸内海の塩飽諸島に浮かぶ人口50人足らずの島です。防波堤を飛び越える猫たちの姿が「飛び猫」としてSNSや写真集で広まり、国内外から猫好き・写真好きが訪れるようになりました。しかし、この島の魅力は飛び猫だけではありません。咸臨丸の乗組員を輩出した海の歴史、現存する両墓制の文化、そして猫と島民が静かに共生する日常の風景。そのすべてが佐柳島という場所を形づくっています。

フェリーに揺られること50分。多度津港から小さな船に乗って海を渡れば、防波堤の上で猫が空を飛ぶ島が待っています。

日本の猫島完全ガイド。人口より猫が多い島の地図

猫写真の撮り方。岩合光昭に学ぶ「猫の目線」

住民10人、猫100匹。青島という小さな楽園


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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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