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猫映画ベスト15。「猫が教えてくれたこと」から「ルドルフ」まで

猫は映画の中で、ペットとしてだけでなく、自由の象徴として、孤独の比喩として、あるいは都市そのものの化身として描かれてきました。ドキュメンタリー、アニメーション、実写ドラマ、邦画に洋画。猫映画と一口に言っても、その射程は驚くほど広い。本稿では「猫がどのように描かれてきたか」という視点から、観るべき15本を選び、猫と映画の関係史を辿ります。

目次

ドキュメンタリー篇──カメラが捉えた「猫のリアル」

1. 猫が教えてくれたこと(Kedi)(2016年/トルコ)

イスタンブールに暮らす7匹の野良猫を追ったドキュメンタリーです。監督のジェイダ・トルンは、猫目線──地上わずか10cmのカメラアングルを多用し、人間の都市を「猫の世界」として再構成しました。Rotten Tomatoesで98%という驚異的な支持率を獲得し、Time誌の2017年ベスト映画10にも選出されています。

この映画が画期的だったのは、猫を「飼われる存在」ではなく「都市と共生する独立した存在」として描いた点です。サル、ドゥマン、ベンギュ、アスラン・パルチャス、ガムスズ、プシコパット、デニズ。7匹それぞれに個性があり、人格(猫格)がある。猫を通して見えてくるのは、急速に近代化するイスタンブールという街の姿そのものです。猫映画の到達点と呼んでいい一本。詳しくは映画「Kedi」レビュー。イスタンブールの猫ドキュメンタリーが教えてくれたことで書いています。

2. 岩合光昭の世界ネコ歩き 劇場版(2021年/日本)

NHK BSで人気を博した動物写真家・岩合光昭のシリーズの劇場版です。北海道から沖縄、そして世界各地で暮らす猫たちを、岩合のカメラが静かに追います。解説は最小限。猫の日常をそのまま「映画体験」として提示するという、ある種の実験的な構成が特徴です。

ドキュメンタリーとしての価値は、岩合が40年以上かけて築いた「猫との距離感」にあります。驚かせない、追いかけない、待つ。その姿勢が、猫の自然な表情を引き出しています。猫映画というジャンルにおいて「撮る側の倫理」を考えさせる作品でもあります。

3. ねことじいちゃん(2019年/日本)

島で暮らす老人と飼い猫の日常を描いた実写映画。原作はねこまきの同名漫画です。監督は動物写真家の岩合光昭で、劇映画の初監督作にあたります。立川志の輔の朴訥とした演技と、島の猫たちの自然体な佇まいが、日本の猫映画に新しい「静けさ」をもたらしました。

アニメーション篇──描かれた猫の変遷

4. 猫の恩返し(2002年/日本)

スタジオジブリ、森田宏幸監督。猫の王国に連れ去られた女子高生ハルの物語です。上映時間75分という軽さの中に、「自分の時間を自分で生きる」という普遍的テーマを込めた本作は、20年以上経った今もSNSで語られ続けています。バロンという猫の紳士は、ジブリが生んだ最も洗練された「猫キャラクター」と言えるでしょう。詳細な批評は『猫の恩返し』が20年経っても愛される理由を考えるをどうぞ。

5. ルドルフとイッパイアッテナ(2016年/日本)

斉藤洋の児童文学を原作とする3DCGアニメーション。飼い猫のルドルフが長距離トラックに乗り込んでしまい、東京で野良猫のボス「イッパイアッテナ」と出会う物語です。制作費6億円という日本のCGアニメとしては控えめな予算ながら、「猫の社会」を真正面から描いた意欲作です。

この映画の核心は「教育」にあります。イッパイアッテナは字が読める猫であり、ルドルフに読み書きを教えます。知識は自由をもたらす。猫の物語でありながら、その主題は極めて人間的です。子ども向けと侮れない骨太な脚本が光ります。

6. 泣きたい私は猫をかぶる(2020年/日本)

スタジオコロリド制作、Netflix配信。猫に変身できる仮面を手にした中学生の少女を描くファンタジーです。志田未来と花江夏樹の声の演技が、思春期の不安定さを鮮やかに表現しています。コロナ禍で劇場公開が叶わずNetflix配信となりましたが、結果的に世界中に届きました。

「猫をかぶる」という日本語の慣用表現をそのまま物語の構造にした点が秀逸です。本当の自分を見せることへの恐れ。猫になれば楽なのに、人間に戻ることを選ぶ。猫というモチーフが「仮面」と「本音」の比喩として機能しています。

7. 長ぐつをはいたネコと9つの命(2022年/アメリカ)

ドリームワークス・アニメーション。前作から11年ぶりの続編です。「9つの命のうち8つを使い果たした猫」という設定が、文字通り「命がけ」の物語を生みました。アクション映画としての完成度が極めて高く、アニメーション表現としてもスパイダーバースに匹敵する革新性を見せています。猫映画の枠を超えた、2020年代を代表するアニメーション映画の一本です。

8. おしゃれキャット(1970年/アメリカ)

ディズニー・クラシック。パリを舞台に、上流階級の猫ダッチェスと野良猫トーマス・オマリーの冒険を描きます。「Ev’rybody Wants to Be a Cat」は、半世紀以上経った今でもジャズスタンダードとして演奏される名曲です。猫映画の原型を作ったと言っても過言ではない作品であり、「猫=自由・気まぐれ・洗練」というイメージの源流がここにあります。猫アニメの系譜については猫が出るアニメ、カルチャー的に重要な10本もご覧ください。

実写篇──猫と人間の関係を描く

9. ボブという名の猫 幸せのハイタッチ(2016年/イギリス)

ホームレスのストリートミュージシャン、ジェームズ・ボウエンと茶トラ猫ボブの実話に基づく映画です。ボブ本人(本猫)が多くのシーンに出演しているという事実が、この映画に他の猫映画にない「重み」を与えています。猫が人間を救う物語は数あれど、実際にドラッグ依存から一人の青年を救った猫の話は、フィクションの力を超えています。

10. 世界から猫が消えたなら(2016年/日本)

川村元気の小説を佐藤健・宮崎あおい主演で映画化。脳腫瘍で余命わずかと告げられた青年の前に悪魔が現れ、「世界からひとつ何かを消すたびに、1日寿命を延ばす」と持ちかけます。電話が消え、映画が消え、時計が消える。そして最後に猫を消すかどうかを迫られる。

猫は本作において、「失って初めて気づく日常の温かさ」の象徴です。哲学的な問いかけを娯楽映画の文法で語る手腕は見事ですが、同時に「猫を感動装置として消費する」ことへの危うさも感じます。猫映画批評としては、その両面を見つめるべき作品です。

11. レンタネコ(2012年/日本)

『かもめ食堂』の荻上直子監督作品。孤独な人々に猫を貸し出す「レンタネコ業」を営む女性サヨコの物語です。猫を「所有」するのではなく「借りる」という発想が、現代の人と動物の関係を問い直しています。荻上監督特有の「何も起こらないのに豊かな時間」が流れる作品で、猫映画の中でも最も「静か」な一本です。

12. グーグーだって猫である(2008年/日本)

大島弓子の自伝的エッセイ漫画を犬童一心監督が映画化。吉祥寺で暮らす女性漫画家と猫の日常を描きます。大島弓子という漫画家の「生と死を見つめる目線」が、猫を通して静かに表現されています。小泉今日子の柔らかな演技と、吉祥寺の街並みが猫の居場所として機能する構成が印象的です。

13. ねこあつめの家(2017年/日本)

人気スマートフォンアプリを原案にした映画ですが、アプリの再現ではなく、スランプに陥った小説家が田舎の古民家に引っ越し、庭に集まる猫たちとの交流を通じて再生していく物語になっています。伊藤淳史の「何もできない」演技が、猫の自由さとの対比として効いています。

14. インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(2013年/アメリカ)

コーエン兄弟監督。1960年代ニューヨークのフォークシンガーを描いた作品ですが、物語の鍵を握るのが一匹の茶トラ猫ユリシーズです。主人公ルーウィンが預かることになったこの猫は、彼の「手に負えない人生」そのもののメタファーとして機能しています。猫が逃げ、猫を追い、猫と再会する。その軌跡がそのまま男の放浪と重なる。猫を「物語装置」として最も知的に使った映画のひとつです。

15. 子猫をお願い(2001年/韓国)

韓国映画。高校を卒業したばかりの5人の女性たちの友情と将来への不安を描いた作品で、彼女たちの間を行き来する子猫が、変わりゆく関係性の象徴として使われています。2000年代アジア映画における「猫=若者の不安定さと自由の象徴」という描き方の先駆けとなった作品であり、韓国インディペンデント映画の傑作としても評価されています。

猫映画の変遷──「ペット」から「主体」へ

15本を並べてみると、猫の描かれ方に明確な変遷があることに気づきます。

  • 1970年代以前:猫は「擬人化されたキャラクター」として描かれていました。『おしゃれキャット』のダッチェスは、猫の姿をした人間です
  • 2000年代:『猫の恩返し』『子猫をお願い』など、猫が「自由と自立の象徴」として使われるようになります
  • 2010年代:『Kedi』『ボブという名の猫』に代表されるように、猫を「主体」として描く作品が増加。猫そのものの視点から世界を見る試みが始まります
  • 2020年代:『泣きたい私は猫をかぶる』『長ぐつをはいたネコと9つの命』など、猫のモチーフを高度にメタファーとして活用する段階に入っています

この変遷は、私たちの社会における猫の位置づけの変化そのものです。「飼われる動物」から「共に暮らすパートナー」へ、そして「独立した存在として尊重すべき他者」へ。映画は常にその時代の猫観を映し出してきました。

引用・出典

  • 『Kedi(猫が教えてくれたこと)』(2016年、監督:ジェイダ・トルン)Rotten Tomatoes 98%(https://www.rottentomatoes.com/m/kedi_2017
  • Time誌 Top 10 Movies of 2017 選出
  • 『ルドルフとイッパイアッテナ』(2016年、原作:斉藤洋、監督:湯山邦彦・榊原幹典)
  • 『猫の恩返し』(2002年、スタジオジブリ、監督:森田宏幸)
  • 『長ぐつをはいたネコと9つの命』(2022年、ドリームワークス・アニメーション)
  • 『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』(2016年、原作:ジェームズ・ボウエン)

FAQ

Q. 猫映画の初心者にまず1本おすすめするなら?

ドキュメンタリーなら『猫が教えてくれたこと(Kedi)』、アニメなら『猫の恩返し』、実写なら『ボブという名の猫』をおすすめします。いずれも猫への深い敬意がある作品であり、猫映画というジャンルの幅広さを知る入口として最適です。

Q. 猫が「主役」の映画と「脇役」の映画、どちらが多いですか?

圧倒的に「脇役」の映画が多いです。猫が完全な主役として描かれる映画は、『Kedi』のようなドキュメンタリーか、『ルドルフとイッパイアッテナ』のようなアニメーションに限られます。実写映画では猫はあくまで人間の物語を補完する存在として配置されることがほとんどです。ただし近年は、猫そのものの視点から物語を構築する作品が増えつつあります。

Q. 海外の猫映画と日本の猫映画に違いはありますか?

大きな違いがあります。海外(特にハリウッド)の猫映画は猫を「冒険の相棒」や「擬人化されたヒーロー」として描く傾向が強いのに対し、日本の猫映画は「日常の中にいる猫」を静かに見つめる作品が多い点が特徴です。『レンタネコ』『グーグーだって猫である』『ねことじいちゃん』など、日本の猫映画には「何も起きない豊かさ」を描くものが目立ちます。この違いは、日本文化における猫の位置づけ──身近な存在として愛でる文化──が反映されていると言えるでしょう。

まとめ

猫映画は、単なる「猫が出てくる映画」ではありません。それぞれの時代が猫をどう見ていたか、人間と動物の関係をどう捉えていたかを映し出す鏡です。1970年の『おしゃれキャット』から2022年の『長ぐつをはいたネコと9つの命』まで、猫の描かれ方は「擬人化」から「主体化」へと確実に変化してきました。15本の中に、あなたの「猫映画」がきっとあります。まだ観ていない一本があれば、ぜひ手に取ってみてください。

猫と映像文化の関係をもっと知りたい方は、『猫の恩返し』が20年経っても愛される理由を考える映画「Kedi」レビュー。イスタンブールの猫ドキュメンタリーが教えてくれたこと猫が出るアニメ、カルチャー的に重要な10本もあわせてどうぞ。

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著者:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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