ハッピーハッピーハッピーキャット、チピチピチャパチャパ、バナナキャット、マックスウェル──。2024年に日本を席巻した「猫ミーム」ブームで使われた素材たち、その起源と意味を正確に知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。本記事では、国内外の猫ミーム素材を時系列・ジャンル別にアーカイブし、それぞれの起源、意味、使われ方を解説します。ネットカルチャーの「文化遺産」として、ここに記録しておきます。
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そもそも「猫ミーム」とは何か
2024年の文脈で語られる「猫ミーム」とは、猫などの動物が特徴的な動きや表情を見せる短い動画素材を切り抜き、耳に残る楽曲と組み合わせて日常のエピソードを再現するショート動画フォーマットのことです。TikTokを起点に2023年末頃から広まり、2024年1月以降、X(旧Twitter)やYouTube Shortsで爆発的に流行しました。イー・ガーディアンが発表した「SNS流行語大賞 2024」では堂々の1位を獲得しています。
ただし、猫ミームという文化そのものはもっと古く、2000年代のLOLcatやNyan Cat、Grumpy Catなど、インターネットの各時代を象徴する猫素材が存在してきました。本記事では、2024年の日本ブームで使われた素材を中心に、クラシックな海外ミームまで幅広くカバーします。
2024年日本ブームの主要素材
まずは、2024年に日本で大流行した猫ミームの代表的な素材を解説します。これらはショート動画の「配役」として使い分けられ、それぞれに固有の役割と感情表現が割り当てられています。
ハッピーハッピーハッピーキャット(Happy Happy Happy Cat)
猫ミームブームの象徴的存在です。満面の笑みで左右に揺れる猫の映像に、Noodle & Palsの「My Happy Song」が組み合わされています。楽しい場面、嬉しい出来事の表現に使われます。
元ネタの猫は、2015年にTwitter(現X)に投稿されたペットショップの猫の動画とされています。実は「売れ残ってしまった猫が必死にアピールしている」映像であり、ハッピーな使われ方とは裏腹に、少し切ないバックストーリーを持っています。
チピチピチャパチャパ猫(Chipi Chipi Chapa Chapa Cat)
リズミカルに頭を振る猫の映像に、中毒性の高い楽曲が合わさったミームです。使用楽曲「Dubidubidu」は、2003年にチリの歌手クリステル・ロドリゲスが当時わずか5歳でリリースした楽曲。20年以上の時を経てまさかのバイラルヒットとなり、本人も驚きのコメントを発表しました。
猫の元ネタは、Instagramユーザー@mugimeshi323が飼っている猫「ココア」です。もともとは猫用トイレのスポンサー動画から切り取られた映像で、2023年12月にTikTokユーザー@mel0yyyy_02が楽曲と組み合わせて投稿したところ、4日間で1,570万回再生・220万いいねを記録しました。
バナナキャット(Banana Cat)
バナナのスーツを着た猫のキャラクターです。大泣きバージョン、ハートを持つ照れバージョンなど多数の派生があり、悲しい場面や感動的な場面で使われます。改変のしやすさからミーム素材としての汎用性が非常に高く、2023年中頃からGoogle検索のトレンドが急上昇しました。
マックスウェル(Maxwell the Cat)
音楽に合わせてくるくると回転する黒猫のアニメーションです。猫の本名はJess(ジェス)で、2017年にImgurに投稿された写真が元ネタ。2020年に「Maxwell the Cat」の名前でミーム化し、BGMには「Weebls Stockmarket」が使われています。登場シーンや場面転換のトランジションとして多用されます。
叫ぶ猫(Screaming Cat)
キレ散らかしながら鳴き叫ぶ黒猫のミームです。怒りの感情表現に特化しており、「嫌なことがあった」「理不尽な目に遭った」という場面で使われます。悲しみよりも怒りのニュアンスが強いのが特徴です。
Huh Cat
「Huh?」と言わんばかりの怪訝な表情を浮かべる猫です。予想外の展開、理解不能な状況、困惑する場面で使われます。猫ミーム動画では「え?」「は?」というリアクション担当として欠かせない存在です。
泣く猫(Crying Cat / Thumbs Up Crying Cat)
涙を流す猫の画像で、特に「親指を立てながら泣いている猫」のバリエーションが有名です。「つらいけど大丈夫」「泣きながらも前を向く」という複雑な感情を一枚で表現でき、日常の小さな悲劇をユーモラスに描く場面で重宝されています。
クラシック猫ミーム──海外発の「殿堂入り」素材
2024年の日本ブーム以前から、インターネットには伝説的な猫ミームが存在してきました。ここでは、ネット文化史に残る「殿堂入り」素材を時系列で紹介します。
LOLcat / I Can Has Cheezburger?(2005〜2007年)
すべての始まりと言える存在です。2005年、匿名掲示板4chanで毎週土曜日に猫画像を投稿する「Caturday(キャタデー)」文化が誕生。2007年には「I Can Has Cheezburger?」サイトが立ち上がり、猫画像にわざと文法を崩した英語(lolspeak)でキャプションをつけるスタイルが確立されました。月間1億PVを超えるモンスターサイトに成長し、ユーザー参加型ミーム文化の原型をつくりました。
Keyboard Cat(1984年撮影 / 2007年公開)
青いシャツを着た猫「Fatso」がキーボードを弾いているように見える動画です。撮影は1984年ですが、2007年にYouTubeにアップロードされてバイラル化しました。「失敗動画のオチ」として使われるフォーマットを確立した、ミーム構造の先駆者です。
Nyan Cat(2011年)
ポップタルトの体を持つ猫が虹を残しながら宇宙を飛ぶアニメーション。2011年4月2日にクリストファー・トーレスがイラストを公開し、同月5日にYouTubeユーザーsaraj00nが日本のポップソング「にゃんにゃんにゃん」を組み合わせた動画を投稿して爆発的に拡散しました。シュールさと中毒性の完璧な融合体です。
Grumpy Cat(2012年)
不機嫌な表情の猫「ターダー・ソース」。2012年9月22日にRedditに投稿された1枚の写真から世界的アイコンになりました。Facebookフォロワー1,600万人超、映画出演、書籍出版、グッズ展開と、猫ミームがビジネスになることを証明した存在です。2019年に亡くなった際、世界中のメディアが訃報を報じました。
Woman Yelling at a Cat / Smudge(2019年)
テーブルに座って困惑した表情を浮かべる白猫「Smudge」と、リアリティ番組の出演者が叫んでいるシーンを組み合わせたミームです。Smudgeはカナダ・オタワ在住の猫で、2018年に親族の食事会で空いた椅子に座り込み、目の前のサラダに困惑している写真が撮影されました。2019年5月にTwitterで合成画像が投稿されて大バズり。「対立構造」をユーモラスに描くフォーマットとして定着しました。
日本発の猫ミーム──独自の系譜
海外発のミームが注目されがちですが、日本にも独自の猫ミーム文化が根付いています。
- ギコ猫(2000年代前半):2ちゃんねるで人気を博したアスキーアートの猫。「逝ってよし!」「ゴルァ!」が口癖。テキストベースのミーム文化の象徴
- 宇宙猫(2013〜2014年頃):宇宙の画像を背景に、目を丸くした猫を合成した画像。「理解が追いつかない」「圧倒された」状態を表すリアクション画像として使用
- 仕事猫 / 現場猫(2018年):ヘルメットをかぶり「ヨシ!」と言う猫のイラスト。イラストレーター・くまみねが発祥。労働安全をネタにした独自の文化圏を形成し、自治体の啓発ポスターに採用されるまでに
- まる(2008年〜):箱に入ることが大好きな日本の猫。YouTube動画は累計数億回再生を記録し、海外での日本猫ブームの先駆けに
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猫ミーム素材の「使い分け」早見表
猫ミーム動画を制作する際、素材にはそれぞれ「担当する感情」があります。以下の早見表を参考にしてください。
- 嬉しい・楽しい:ハッピーキャット、チピチピチャパチャパ猫
- 悲しい・切ない:バナナキャット(泣きVer.)、泣く猫
- 怒り・理不尽:叫ぶ猫
- 困惑・驚き:Huh Cat、宇宙猫
- 登場・転換:マックスウェル
- つらいけど頑張る:Thumbs Up Crying Cat
- 対立・言い争い:Woman Yelling at a Cat(Smudge)
これらの素材を「キャスティング」のように使い分けることで、日常のエピソードが猫ミーム動画として成立するわけです。
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猫ミームを「文化遺産」として見る視点
猫ミームは一見すると「ただの面白動画」ですが、文化的に見ると非常に興味深い現象です。
第一に、猫ミームは「集合知のフォークロア」です。誰か一人の作品ではなく、無数のユーザーが素材を共有し、再解釈し、再構成することで成立しています。この構造は、民話や伝承が口伝えで変容していく過程と本質的に同じです。
第二に、ミーム素材には「消費期限」があります。2024年の猫ミームブームは春から初夏にかけてピークを迎え、同年内にはほぼ収束しました。しかし、LOLcatやGrumpy Catのように、時代を超えて参照され続ける素材も存在します。何がクラシックとして残り、何が消えていくのか。その選別のメカニズム自体が、インターネット文化の研究対象です。
第三に、猫ミームはグローバルとローカルが交差する場でもあります。チリの5歳の少女の歌が20年後に日本のTikTokでバズる。日本の猫「ココア」のトイレ動画が世界中でリミックスされる。猫ミームは、文化が国境を越えて伝播する21世紀型のコミュニケーション装置なのです。
引用・出典
- Know Your Meme「Chipi Chipi Chapa Chapa / “Dubidubidu”」
- Know Your Meme「LOLcats」
- Know Your Meme「Smudge the Cat」
- Know Your Meme「Thumbs Up Crying Cat」
- Wikipedia「Nyan Cat」
- Wikipedia「Dubidubidu」
- Wikipedia「猫ミーム」(日本語)
- pixiv百科事典「猫ミーム」
- Real Sound「“猫ミーム”がSNSで大流行」(2024年)
- KAI-YOU「猫ミーム「チピチピチャパチャパ」元ネタのチリ人歌手、日本のファンに感謝を伝える」
FAQ
Q. 猫ミーム動画で最も使われている素材は何ですか?
2024年の日本における猫ミームブームでは、「ハッピーハッピーハッピーキャット」が最も使用頻度の高い素材でした。楽しい場面のほぼすべてでこの素材が使われ、猫ミーム=ハッピーキャットというイメージが定着しました。次いで「チピチピチャパチャパ猫」「バナナキャット」の使用頻度が高く、この3つが猫ミームの「三大素材」と言えます。
Q. チピチピチャパチャパの歌詞には意味があるのですか?
「チピチピチャパチャパ、ドゥビドゥビダバダバ」というフレーズは、いわゆるスキャット(意味を持たない音声)に近いものとされています。原曲「Dubidubidu」はチリの歌手クリステル・ロドリゲスが2003年に5歳でリリースした楽曲で、子ども向けの歌番組で発表されました。歌詞全体にはスペイン語のパートもありますが、サビ部分はリズムと音の楽しさを重視した構成になっています。
Q. 猫ミームのブームはもう終わったのですか?
2024年春〜初夏のピーク時のような爆発的な流行は収束しています。これはミーム特有の消費サイクルであり、「飽き」と「次のトレンドへの移行」が主な要因です。ただし、素材自体はインターネット上にアーカイブされ続けており、LOLcatやGrumpy Catのように、時間を経て「クラシック」として再評価される可能性は十分にあります。猫ミームの文化的価値は、ブームの有無とは別の次元に存在しています。
まとめ
猫ミーム素材は、それぞれに固有の起源、意味、感情表現を持つ「インターネット文化の遺産」です。ハッピーキャットの裏にはペットショップの売れ残り猫の物語があり、チピチピチャパチャパの裏にはチリの5歳の少女の歌がある。一つひとつの素材を掘り下げると、グローバルなネット文化の交差点が見えてきます。流行は過ぎても、これらの素材が生んだ笑いと共感の記録は、デジタル時代のフォークロアとして残り続けるでしょう。
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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera
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