チャンネル登録者数200万人超、総再生回数27億回超。2021年に「YouTubeで最も視聴された猫」としてギネス世界記録に認定されたスコティッシュフォールドの「もちまる」は、日本が生んだ最大の猫インターネットスターです。
しかし、その輝かしい数字の裏には、毎日投稿という過密スケジュール、猫の体調不良と炎上、動物系YouTuberの倫理をめぐる終わりなき議論があります。もちまる日記とは何だったのか。そして、猫YouTubeビジネスはどこへ向かうのか。功と罪の両面から、フェアに読み解きます。
もちまる日記とは ── チャンネルの全体像
もちまるは2019年10月24日生まれのスコティッシュフォールド(オス)。飼い主である「下僕」さんが同年11月にYouTubeチャンネル「もちまる日記」を開設し、もちまるの日常を毎日投稿し始めました。
チャンネルの特徴は、飼い主が顔も声も出さず、テロップで「下僕」の心の声を挿入するスタイルです。もちまるを「もち様」と呼び、飼い主を「下僕」と位置づける世界観が、多くの猫好き視聴者の共感を集めました。主な視聴者層は30〜50代、男女比はほぼ半々と報じられています。
開設からわずか2年弱で、ペットインフルエンサー分野の国内1位(2021年上半期の総再生数)に到達。書籍化、グッズ展開、企業タイアップなど、猫1匹を起点とした巨大なIP(知的財産)ビジネスに成長しました。
ギネス世界記録 ── 「最も視聴された猫」の意味
2021年9月、もちまるは「YouTubeで最も視聴された猫(Most views for a cat on YouTube)」としてギネス世界記録に認定されました。認定時点の記録は、2021年8月12日付けで総再生回数6億1,958万6,290回。
この記録が意味するところは大きく2つあります。
- 日本発の動物チャンネルが世界一になったこと。それ以前の猫YouTube界は、アメリカの「Grumpy Cat」やトルコの「Billi」など海外勢が注目を集めていました。もちまるの記録は、日本の猫動画文化が世界水準であることを証明しました
- 「毎日投稿」というフォーマットの勝利であること。3〜4分の動画を毎日更新し続けるという量的戦略が、YouTubeのアルゴリズムと噛み合い、再生回数を爆発的に伸ばしました。これは後続の猫チャンネルに大きな影響を与え、同時に「毎日投稿」という呪縛も生み出しました
なお、YouTubeにおける動物全体の最多視聴記録は、アメリカのレモンビーグル犬「Maymo」が保持しており、もちまるの記録はあくまで「猫カテゴリ」での世界一です。それでも、2026年現在の総再生回数が27億回を超えている事実は、この記録が一時的なバズではなく、持続的な人気の証であることを示しています。
なぜ、もちまるだけが突出したのか
日本には数千を超える猫YouTubeチャンネルが存在します。その中で、なぜもちまる日記だけがここまで突出できたのでしょうか。
① 毎日投稿の圧倒的な継続力
チャンネル開設から約6年間、ほぼ毎日動画を投稿し続けました。これはYouTubeのレコメンドアルゴリズムと極めて相性がよく、「おすすめ」に表示される頻度を飛躍的に高めました。猫動画は1本あたりの視聴時間が短いため、「次の動画」として自動再生されやすいという構造的な強みもあります。
② 世界観の徹底
「もち様」と「下僕」という主従逆転の設定は、単なるネタではなく、すべてのテロップ、サムネイル、概要欄に一貫して適用されています。この世界観の統一が、チャンネルをブランドに昇華させました。視聴者は「もちまるの動画」ではなく「もちまる日記の世界」に入り込むのです。
③ 編集の黄金バランス
過度な演出を避けつつ、テロップとBGMで感情を適切にガイドする「やりすぎない編集」。この匙加減が、猫動画に求められる「自然体の癒し」と、YouTubeコンテンツに求められる「飽きさせない構成」を両立させました。
猫YouTubeチャンネルの多様な魅力については、猫YouTubeチャンネル、本当に面白いのはどれだ。で詳しく紹介しています。
猫YouTubeビジネスの光 ── 経済圏の拡大
もちまる日記の成功は、猫YouTubeを「趣味の延長」から「ビジネス」へと押し上げました。
- 広告収入。推定年収は数千万円規模とされ、動物系チャンネルとしては国内トップクラス
- 書籍・写真集。複数の書籍が出版され、いずれもベストセラーに
- グッズ・コラボ商品。ぬいぐるみ、カレンダー、アパレルなど、幅広い商品展開。運営元の株式会社AKEYがIP管理を担っています
- 企業タイアップ。ペットフードメーカーや家電メーカーなど、多数の企業とコラボ動画を制作
このビジネスモデルは、後続の猫チャンネルにも影響を与えました。「猫を飼いながら動画を撮れば収益になる」という成功例は、新規参入者を増やし、猫YouTube全体の市場を拡大させたのです。
猫がSNSやメディアで経済を動かす構造については、猫ミームの全史。なぜインターネットは猫に支配されたのかでも解説しています。
猫YouTubeビジネスの影 ── 動物福祉の議論
もちまる日記は、猫YouTubeビジネスの光を象徴すると同時に、その影も鮮明にしました。
毎日投稿という負荷
約6年間にわたる毎日投稿は、飼い主だけでなく、猫にも負荷をかけていたのではないかという指摘があります。2025年9月、チャンネルは毎日投稿の終了を発表し、不定期更新へ移行しました。この発表に対して「そもそも毎日が異常だった」という声がSNSで広がったことは、視聴者側にも問題意識が芽生えていたことを示しています。
体調不良と炎上の連鎖
2025年は、もちまる日記にとって激動の年でした。
- 2月:初の活動休止を発表。当初は「多忙」が理由とされましたが、後にもちまるの慢性腎臓病の悪化が明かされました
- 4月:深夜に5回嘔吐し、救急搬送される事態が発生。尿管閉塞の疑いも報告されました。飼い主はその様子を動画として投稿し、「猫の苦しみを撮影してコンテンツにしている」という批判が殺到しました
- 5月:活動を再開。もちまるの回復が報告されましたが、編集が最小限になるなど、以前とは異なるペースでの復帰となりました
また、過去には猫に炭酸水を与えた動画が「健康被害を招く可能性がある」として批判を浴びたこともあります。
「動物虐待」か「過剰反応」か
もちまる日記に対する批判は、大きく2つの立場に分かれます。
批判派は、「毎日の撮影が猫のストレスになっている」「病気の猫を撮影して収益を得ている」「明らかにやらせの演出がある」と主張します。一方、擁護派は「猫は十分にケアされている」「動画を見て判断するのは早計」「獣医の指導のもと治療を受けている」と反論します。
この議論に正解はありません。ただ、確実に言えることがあります。登録者200万人のチャンネルで猫を撮り続けることは、一般的な飼い猫の生活とはまったく異なる環境を猫に強いているということです。それが「虐待」に当たるかどうかは別として、動物系YouTuber全体が向き合うべき倫理的課題であることは間違いありません。
猫インフルエンサー全般の倫理的な論点については、猫インフルエンサーの時代。企業が猫に広告費を払う理由でも取り上げています。
もちまる以後 ── 猫YouTubeはどう変わったか
もちまる日記の成功と炎上は、猫YouTubeの文化そのものを変えました。
- 「無理しない投稿頻度」への意識。毎日投稿を謳わず、週2〜3回のペースで質を重視するチャンネルが増えました
- 保護猫チャンネルの台頭。収益を寄付するサンシャイン池崎さんの「ふうちゃんらいちゃんねる」など、動物福祉と両立するモデルが支持を集めています
- 視聴者リテラシーの向上。「かわいい」だけで消費するのではなく、撮影環境や猫の健康状態に目を向ける視聴者が増えました
- プラットフォーム側の変化。YouTubeが動物を含むコンテンツのガイドラインを強化する動きも出てきています
もちまる日記は、猫YouTubeの可能性と限界を同時に示したチャンネルです。その功績を否定する必要はありませんが、「次のもちまる」を目指すことが猫にとって幸せかどうかは、まったく別の問いです。
出典・参考
- ギネス世界記録認定リリース(2021年9月)── 株式会社AKEY プレスリリース(PR TIMES)
- 「YouTubeで最も視聴された猫 もちまる日記もち様がギネス認定」── KAI-YOU(2021年9月)
- 「もちまる日記、毎日更新の終了を発表」── 週刊女性PRIME(2025年9月)
- 「人気の猫動画もちまる日記再開も批判殺到」── Yahoo!ニュース エキスパート(2025年)
- 「もちまる日記 保護猫支援を報告」── ライブドアニュース(2025年9月)
よくある質問(FAQ)
Q. もちまるは何の猫種ですか?
スコティッシュフォールドのオスです。2019年10月24日生まれで、2026年現在6歳です。スコティッシュフォールド特有の折れ耳と丸い顔が「もちまる(餅のように丸い)」という名前の由来になっています。なお、スコティッシュフォールド自体が遺伝性の骨軟骨異形成症のリスクを抱える品種であり、繁殖の是非についても議論があります。
Q. もちまる日記は現在も更新されていますか?
2025年9月に毎日投稿の終了が発表され、以降は不定期更新に移行しています。飼い主の「下僕」さんは「ゆるーく更新していく」とコメントしています。2025年にはもちまるの慢性腎臓病の悪化により、2度の活動休止を経験しました。投稿頻度は落ちていますが、チャンネル自体は継続しています。
Q. 猫YouTubeを見る際に気をつけるべきことは?
まず、動画の中で猫がストレスを感じていないかを意識してみてください。耳が後ろに倒れている、尻尾を激しく振っている、逃げようとしているなどのサインがあれば、それは猫が嫌がっている可能性があります。また、「かわいい」の裏にある撮影環境にも思いを馳せること。動物系チャンネルを楽しむことと、動物福祉に関心を持つことは矛盾しません。視聴者のまなざしが変われば、チャンネルの在り方も変わっていきます。
まとめ
もちまる日記は、猫YouTubeというジャンルを一つの産業に押し上げた功績と、動物をコンテンツとして消費することの倫理的課題を同時に突きつけた存在です。ギネス世界記録、200万人の登録者、27億回の再生。その数字は間違いなく偉大ですが、数字の先にいるのは、1匹の猫です。猫YouTubeを楽しむ私たちにできることは、「かわいい」と「大丈夫だろうか」の両方の目を持ち続けることなのかもしれません。
URAYAMA NO NEKOでは、猫と人間の文化的な関わりを、楽しさと誠実さの両面から記録しています。
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執筆:URAYAMA NO NEKO 編集部
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