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日本の猫史。弥生時代から令和まで、2000年の猫と人間の関係

日本人と猫の付き合いは、少なくとも2000年にわたります。穀物を守るネズミ捕りとして大陸から渡来し、貴族に溺愛され、浮世絵に描かれ、化け猫として恐れられ、駅長として愛され、YouTubeで世界を席巻する。猫の立場はその時代の社会構造を映す鏡でした。

この記事では、弥生時代から令和まで、日本における猫の歴史を時系列で辿ります。単なる年表ではなく、「なぜその時代に猫はそう扱われたのか」という背景まで掘り下げます。

目次

弥生〜古墳時代──猫はいつ日本に来たのか

日本列島における猫の最古の痕跡は、長崎県壱岐市のカラカミ遺跡から出土した猫の骨です。弥生時代中期(紀元前1世紀頃)のもので、2008年の発掘調査で確認されました。これにより、猫の渡来時期は従来の通説(奈良時代)から大幅に遡ることになりました。

なぜ弥生時代に猫がいたのか。それは稲作の伝来と関係しています。大陸から穀物が船で運ばれる際、船倉のネズミを駆除するために猫が同乗していたと考えられています。つまり猫は、コメと一緒に日本に来た。農耕文明の副産物として、猫は日本列島に上陸したのです。

ただし、弥生時代の猫が広く定着していたかどうかは不明です。出土例はごく限られており、組織的に飼育されていた痕跡もありません。猫が日本社会に本格的に根づくのは、もう少し先の話になります。

奈良〜平安時代──貴族のペットとしての猫

猫が文献に明確に登場するのは、奈良時代から平安時代にかけてです。889年(寛平元年)、宇多天皇が日記に「黒猫を飼い始めた」と記した記録は、日本最古の猫の飼育記録として知られています。天皇はこの黒猫の毛並みや仕草を詳細に描写しており、明らかに愛玩目的で猫を飼っていたことがわかります。

平安時代の貴族社会では、猫は舶来の珍しい動物として高い地位にありました。『源氏物語』の「若菜」の帖では、女三宮の飼い猫が御簾の紐に絡まって外に飛び出し、その姿を柏木が目撃したことが物語の転機となります。猫が単なる背景ではなく、物語を動かすキーアイテムとして機能している。平安文学における猫の存在感は、現代の私たちが想像する以上に大きかったのです。

この時代の猫は「唐猫」と呼ばれ、綱(リード)をつけて飼うのが一般的でした。自由に外を歩かせるのではなく、管理された環境で大切に育てられていた。猫が「放し飼い」になるのは、もっと後の時代です。

鎌倉〜室町時代──猫は寺院と穀倉を守る

武士の時代になると、猫の役割は「愛玩」から「実用」へとシフトします。寺院の経典をネズミの害から守るため、禅寺では猫が重宝されました。鎌倉時代の禅僧たちは中国から茶とともに猫を持ち帰ったともいわれ、寺院と猫の結びつきはこの時期に確立しました。

また、農村では穀物倉庫のネズミ対策として猫の価値が認められるようになりました。室町時代には猫の売買が記録されており、一匹の猫が現在の価値で数万円に相当する価格で取引されていたことがわかっています。猫は貴族だけのものではなく、農民にとっても欠かせないパートナーになっていったのです。猫寺という場所――雲林寺と猫が守る寺の話は、この時代に原型が形づくられました。

江戸時代──猫文化の大爆発

日本の猫文化が最も華やかに花開いたのは、間違いなく江戸時代です。猫が庶民の暮らしに完全に溶け込み、アート、信仰、娯楽のあらゆる領域で猫が主役になりました。

浮世絵の猫──国芳という天才

歌川国芳は、生涯に数十匹の猫を同時に飼い、アトリエの中を猫が自由に歩き回る環境で創作を続けた浮世絵師です。国芳の描く猫は、擬人化されて歌舞伎を演じ、文字の形に体をくねらせ、人間社会を風刺する。猫は単なる被写体ではなく、社会を映す「もうひとつの人間」として機能していました。

国芳の猫浮世絵については、歌川国芳――江戸のストリートアーティストは無類の猫好きだったで詳しく紹介しています。また、浮世絵全般における猫の表現は浮世絵の中の猫たち。江戸時代の猫ブームを読むもあわせてどうぞ。

招き猫の誕生

江戸時代後期には、招き猫が縁起物として登場します。浅草の今戸焼による丸〆猫、豪徳寺の白猫伝説、京都の伏見人形。複数の起源を持つ招き猫は、猫が「福を招く存在」として信仰の対象にまでなったことを示しています。招き猫のルーツを辿る。豪徳寺と今戸神社、どっちが発祥か問題では、発祥地論争について詳しく取り上げています。

化け猫伝説の裏側

一方で、江戸時代は「化け猫」伝説が最も盛んだった時代でもあります。「鍋島の猫騒動」「有馬の猫騒動」など、歌舞伎や講談で語られた化け猫の物語は、猫への畏怖の念を反映しています。

なぜ猫は恐れられたのか。暗闇で光る目、音もなく歩く足、獲物を仕留める瞬発力。猫の身体能力は、照明の乏しい江戸の夜には確かに異様に映ったでしょう。さらに、年老いた猫(猫又)が尾が二つに割れて化けるという伝承は、猫の長寿と人間の老いへの恐怖が結びついたものと考えられています。愛玩と畏怖の二面性は、日本の猫文化を語るうえで欠かせない要素です。

明治〜昭和──近代化と猫

明治維新以降、日本は急速に近代化しましたが、猫の立場は大きく変わりませんでした。むしろ、文学者たちが猫を愛し、描くことで、猫の文化的地位はさらに高まりました。

夏目漱石『吾輩は猫である』(1905年)

日本文学史上最も有名な猫の登場です。名前のない猫の一人称で人間社会を風刺するこの小説は、猫を「語り手」にするという画期的な手法で、猫文学というジャンルを確立しました。漱石自身も猫を飼っており、この猫が死んだ際には知人に死亡通知を出したという逸話が残っています。

戦時中の猫──毛皮供出と受難

猫の歴史で最も暗い時期が、第二次世界大戦中です。1944年、政府は軍用防寒具の材料として犬猫の毛皮の供出を呼びかけました。多くの猫が殺され、毛皮にされた。この事実はあまり語られませんが、戦争が動物にもたらした悲劇として記憶されるべきでしょう。

戦後の猫ブーム

高度経済成長期、住宅事情の変化とともに猫の飼い方も変わりました。団地やマンションの普及により、散歩が必要な犬よりも室内で飼える猫の需要が高まります。1970年代にはキティちゃん(ハローキティ)が誕生し、猫はキャラクタービジネスの主役にもなりました。

平成〜令和──猫の黄金時代

2012年頃から始まった「第3次猫ブーム」は、現在も続いています。その原動力は、間違いなくインターネットです。

ネコノミクスの衝撃

2015年、関西大学の宮本勝浩名誉教授が「ネコノミクス」の経済効果を2兆3,162億円と試算し、大きな話題になりました。猫関連のペットフード、グッズ、観光、メディアなどを含めたこの数字は、猫がひとつの経済圏を形成していることを示しています。ネコノミクス約3兆円。猫が動かす日本経済の内訳を解剖するでは、この経済効果について詳しく分析しています。

猫の飼育数が犬を逆転

2017年、一般社団法人ペットフード協会の調査で、猫の飼育頭数が犬を初めて上回りました。その差は年々広がり、2025年時点では猫が約906万頭、犬が約684万頭。単身世帯の増加、高齢化、在宅ワークの普及が、猫の飼いやすさとマッチした結果です。

猫とSNS・動画の時代

YouTube、Instagram、TikTok。あらゆるプラットフォームで猫コンテンツは最強クラスの再生数を誇ります。「もちまる日記」は登録者数200万人を超え、テレビ番組にも出演。猫は「飼う」だけでなく「見る」「シェアする」対象として、かつてない広がりを見せています。

2000年の猫史を振り返って見えること

弥生時代のネズミ捕りから令和のYouTuberまで、猫の役割は時代とともに変化してきました。しかし、ひとつだけ変わらないことがあります。それは、猫が常に人間社会の「鏡」だったということです。

農耕社会では労働力として、貴族社会ではステータスとして、江戸の庶民文化ではアートの題材として、戦時中には消耗品として、そしてデジタル時代にはコンテンツとして。猫への扱いを見れば、その時代の人間の価値観が見えてくる。猫の歴史は、人間の歴史そのものなのです。

FAQ

Q. 猫はいつ日本に来たのですか?

従来は奈良時代(8世紀)の渡来が通説でしたが、2008年に長崎県壱岐市のカラカミ遺跡から弥生時代中期(紀元前1世紀頃)の猫の骨が出土し、渡来時期は大幅に遡りました。大陸からの穀物輸送船にネズミ対策として猫が乗っていたと考えられています。

Q. 日本で最初に猫を飼った記録は?

889年(寛平元年)の宇多天皇の日記が、日本最古の猫の飼育記録とされています。天皇は黒猫の毛並みや仕草を詳しく記しており、純粋に愛玩目的で猫を飼っていたことがわかります。

Q. 猫の飼育数が犬を上回ったのはいつ?

2017年にペットフード協会の調査で初めて猫の飼育頭数が犬を上回りました。単身世帯の増加、散歩不要の手軽さ、在宅ワークの普及などが背景にあります。2025年時点では猫約906万頭に対し犬約684万頭と、差は拡大しています。

まとめ

日本と猫の2000年史を一言で表すなら、「共進化」です。猫は人間のそばで生き方を変え、人間もまた猫との関係を通じて文化を生み出してきました。弥生の穀倉から令和のスマートフォンまで、猫はつねに時代の中心近くにいた。これからの1000年も、きっとそうでしょう。

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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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