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猫写真の撮り方。岩合光昭に学ぶ「猫の目線」

猫の写真を「うまく撮る」テクニックなら、ネットにいくらでもあります。シャッタースピード、ISO感度、連写モード。しかし、世界で最も多くの人の心を動かしてきた猫写真家・岩合光昭さんが語るのは、そういう話ではありません。

「徹底的にネコの立場に立つ」。岩合さんの撮影哲学はこの一言に集約されます。テクニックの前に、まず猫をどう見るか。猫と自分の関係をどう結ぶか。そこから始まる写真の話を、この記事では丁寧に追いかけます。

カメラの設定を教える記事ではありません。猫写真の「哲学」を知るための記事です。

目次

岩合光昭とは誰か――「世界ネコ歩き」の男

岩合光昭さん(1950年生まれ)は、日本を代表する動物写真家です。父・岩合徳光氏も動物写真家という環境で育ち、19歳のときにガラパゴス諸島を訪れたことが写真家人生の原点になりました。以来50年以上にわたり、アフリカのサバンナから北極圏まで、地球上のあらゆる場所で動物を撮り続けています。

一般に広く知られるようになったのは、NHK BSプレミアムの番組「岩合光昭の世界ネコ歩き」(2012年〜)でしょう。世界各地の街角で暮らす猫たちの日常を、岩合さん自身がカメラを持って追いかけるドキュメンタリー。この番組は猫好きの枠を超えて愛され、写真集やカレンダー、映画化にまで広がりました。

しかし、岩合さんの本質はテレビタレントでも猫グッズのプロデューサーでもありません。半世紀以上にわたって動物と向き合い続けてきた、筋金入りのフィールド写真家です。その人が語る「猫の撮り方」は、テクニックの話ではなく、生き物との向き合い方そのものです。

哲学その1。「猫の目線」まで降りる

岩合さんの猫写真を見たことがある人なら、独特の視点に気づくはずです。まるで猫がカメラを持って猫を撮ったような写真。その秘密は、文字通り猫の目の高さにカメラを構えることにあります。

「世界ネコ歩き」の撮影現場では、岩合さんはスタッフに対して繰り返し「みんな座って」と指示するそうです。人間が立ったまま猫を見下ろすと、猫は見上げる形になり、本来の表情が見えません。小さな子どもに話しかけるとき、自然としゃがんで目線を合わせるのと同じことです。

岩合さん自身は、ほふく前進のスタイルで撮影に臨むことも珍しくありません。地面に腹ばいになり、猫と同じ地平線を共有する。その姿勢で初めて、猫が見ている世界が見えてくるのだと言います。

これは単なるローアングル撮影のテクニックではありません。「猫と対等になる」という意思表示です。人間の視点から猫を「撮ってあげる」のではなく、猫の世界に自分が入っていく。その姿勢の違いが、写真に出るのです。

哲学その2。「待つ」ことが撮影の大半

岩合さんの撮影スタイルのもうひとつの核は、「待つ」ことです。

猫を見つけたら、まず遠くから撮り始める。いきなり近づかない。カメラを向けながら、猫がこちらに興味を持ってくれるまで、ひたすら待つ。10分、20分、ときには1時間以上。猫のほうから「この人、大丈夫かもしれない」と判断してくれるまで、じっと動かずにいるのです。

子猫を撮るときには、さらに慎重になります。岩合さんはまず母猫に「撮影の許可」をもらうと語っています。動物は子どもを育てているとき、見慣れない存在を警戒します。いきなり子猫にカメラを向ければ、母猫は子猫を連れて去ってしまう。だからまず母猫のそばで静かに時間を過ごし、「この人間は危険ではない」と認識してもらってから、初めて子猫を撮らせてもらうのです。

現代の写真文化は「決定的瞬間」を追いかける傾向があります。連写して、ベストショットを選ぶ。しかし岩合さんのアプローチは真逆です。猫との信頼関係を築くことに時間の大半を使い、シャッターを切るのはほんの一瞬。その一瞬に、猫の自然な表情が宿ります。

哲学その3。「ネコはネコ」――飼い猫も野良も同じ

「世界ネコ歩き」の撮影初日、岩合さんがスタッフに最初に伝えた言葉があります。

「飼いネコか野良ネコかなんて関係ない。ネコはネコなんだから」

この言葉には、岩合さんの動物観が凝縮されています。人間が勝手につけたカテゴリー――飼い猫、野良猫、地域猫――そういう分類を取り払い、一匹の猫として向き合う。この番組は猫が主体なのだから、人間の都合で猫を分けない。

写真においても同じです。飼い猫だから「かわいく」撮る、野良猫だから「たくましく」撮る、という先入観を持たない。目の前にいる一匹の猫が、今この瞬間に何を感じ、何を見ているか。それだけに集中する。先入観を捨てたとき、猫の本当の姿が見えてくるのだと岩合さんは語ります。

テクニックの話も少しだけ。光と距離

哲学の話ばかりでは、写真を撮りたい人の役に立ちません。岩合さんの撮影から学べる、実践的なポイントも整理しておきます。

光を読む

岩合さんの猫写真に共通するのは、光の美しさです。特に自然光を重視し、朝と夕方の柔らかい光を好みます。猫の毛並みを最も美しく見せるのは、サイド光や逆光。毛の一本一本が光を透過して金色に輝く瞬間は、フラッシュや人工照明では絶対に再現できません。

  • 窓辺の自然光:室内で猫を撮るなら、蛍光灯を消して窓からの光だけで撮る。午前10時〜午後2時ごろの柔らかい光がベストです
  • 逆光を恐れない:猫の後ろから光が差すと、毛並みが光の輪郭をまとって浮き上がります。露出補正を+1〜+2にすれば、猫の表情も潰れません
  • 影を活かす:猫と影のコントラストは、写真に奥行きと物語を与えます。路地裏の猫に落ちる午後の影は、それだけで一枚の写真になります

距離を詰めない

岩合さんはズームレンズを使わず、自分の足で距離を調整すると言われています。しかし、猫に近づきすぎることは決してしません。猫が心地よいと感じる距離――いわゆる「パーソナルスペース」を侵さないことが大前提です。

  • 最初は3〜5メートル:まずは猫に存在を認識してもらう距離から始める
  • 猫が逃げない距離を見つける:少しずつ近づき、猫が体をこわばらせたり耳を伏せたりしたら、それ以上は近づかない
  • 猫のほうから来てくれるのを待つ:最高の猫写真は、猫がこちらに興味を持ってくれた瞬間に生まれます

背景をシンプルにする

岩合さんの写真で猫が際立つ理由のひとつは、背景の処理です。絞りを開放に近い値(F1.4〜F2.8)にしてボケを活かし、猫以外の要素を画面から消していく。ごちゃごちゃした背景は、猫の存在感を薄めてしまいます。

街中で撮る場合も、壁一面の色、路面の質感、空の広がりなど、できるだけ単色の背景を選ぶ。「猫を撮る」前に「背景を選ぶ」。その順番が大事です。

スマートフォンでも「猫の目線」は実践できる

ここまでの話を聞いて、「一眼レフを持っていないと無理では?」と思った方もいるかもしれません。しかし、岩合さんの哲学の核はカメラの性能ではありません。

猫の目線まで降りること。待つこと。先入観を捨てること。この3つは、スマートフォンでも実践できます。むしろ、スマートフォンのほうがカメラが小さくて猫を威圧しにくい分、有利な場面すらあります。

  • しゃがむ、座る、腹ばいになる:スマホを地面すれすれに構えるだけで、写真の印象は劇的に変わります
  • 連写よりも「一枚」:猫が自然な表情を見せる瞬間を待って、一枚だけ撮る。その一枚に気持ちを込める
  • フラッシュは使わない:猫の目を傷つける可能性があるだけでなく、人工的な光は猫の自然な美しさを壊します

大切なのは、機材ではなく視点です。猫の世界に入る姿勢があれば、どんなカメラでも「猫の目線」の写真は撮れます。

猫とカルチャーの交差点をもっと知る。URAYAMA NO NEKOの最新情報はInstagramで → @urayamanoneko

引用・出典

岩合さんはいつも、撮影前にスタッフに「みんな座って」と指示します。猫と同じ目の高さにならないと、猫の本当の表情は見えない。小さな子どもに話しかけるとき、しゃがんで目線を合わせるのと同じことです。

出典: OM SYSTEM「岩合光昭:徹底的にネコの立場に立つ」インタビュー

子猫を撮るとき、岩合さんはまず母猫に「撮影許可」をもらいます。動物が子どもを育てているときは見慣れない存在を警戒するため、いきなりカメラを向けると猫を緊張させてしまう。まず母猫の信頼を得てから、子猫を撮らせてもらうのです。

出典: PHPオンライン「動物写真家・岩合光昭さんが写す”自然体な猫”の秘密」

「飼いネコか野良ネコかなんて関係ない。ネコはネコなんだから」。番組の初日に岩合さんがスタッフに伝えたこの言葉は、「世界ネコ歩き」の全編を貫く哲学になりました。

出典: OM SYSTEM「岩合光昭:徹底的にネコの立場に立つ」インタビュー

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よくある質問(FAQ)

Q. 岩合光昭さんの猫写真が特別な理由は何ですか?

最大の理由は、テクニックではなく「猫との向き合い方」にあります。岩合さんは猫の目線まで降りて撮影し、猫がリラックスするまで何十分でも待ちます。「撮る」のではなく「猫の世界に入る」という姿勢が、猫の自然な表情を引き出し、他の写真家にはない親密さを写真に与えているのです。ほふく前進で猫と同じ地平線を共有し、母猫に撮影の許可をもらうという独自のアプローチも、岩合さんの猫写真を唯一無二のものにしています。

Q. 猫を撮るときに最も大切なことは何ですか?

岩合さんの撮影哲学に学ぶなら、最も大切なのは「猫の目線まで降りること」と「待つこと」の2つです。人間の目線から見下ろして撮ると、猫は小さく、平面的に写ります。しゃがむ、座る、腹ばいになるだけで、写真の世界観は劇的に変わります。そして、猫が自然な姿を見せてくれるまで焦らずに待つこと。連写でベストショットを探すのではなく、猫との信頼関係の中から生まれる「一瞬」を大切にする姿勢が、心に残る猫写真への近道です。

Q. スマートフォンでも「いい猫写真」は撮れますか?

撮れます。岩合さんの哲学の核は「猫の目線に立つ」「待つ」「先入観を捨てる」の3つであり、これらはカメラの性能に依存しません。スマートフォンを地面すれすれに構える、猫が自然にくつろぐ瞬間を待つ、フラッシュを使わず自然光で撮る。この3つを意識するだけで、スマートフォンの写真でも猫の魅力は十分に伝わります。むしろ、大きなカメラより猫を威圧しにくい分、スマートフォンのほうが有利な場面もあります。

まとめ

岩合光昭さんが半世紀以上かけてたどり着いた猫写真の極意は、カメラの設定でも構図のテクニックでもありません。「猫の目線まで降りる」「猫がリラックスするまで待つ」「飼い猫も野良猫も区別せず、一匹の猫として向き合う」。この3つの哲学が、世界中の人々の心を動かす猫写真を生み出してきました。大切なのは機材ではなく視点であり、テクニックではなく姿勢です。猫の世界に入る覚悟を持ったとき、あなたのカメラにも猫の本当の姿が映り始めます。

URAYAMA NO NEKOについて

URAYAMA NO NEKOは、猫カルチャーを発信するブランドです。猫のいる風景、猫と暮らす空間、猫が登場するアートや写真。猫を取り巻く文化のすべてを、カルチャーメディアとして記録し、発信しています。オリジナルグッズはこちら → SHOP

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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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