音楽の歴史を振り返ると、猫は驚くほど多くの楽曲に登場しています。ジャズの即興、ロカビリーの反骨、J-POPの切なさ。猫はジャンルを横断して、ミュージシャンたちのインスピレーション源であり続けてきました。
この記事では、洋楽・邦楽・クラシック・ジャズを横断して、猫にまつわる名曲を20曲以上セレクトしました。ただ曲名に「猫」が入っているだけの寄せ集めではありません。なぜその曲が猫を選んだのか、猫がどんなメタファーとして機能しているのかまで掘り下げます。
ロック・ポップスの猫たち
ロックにおける猫は、自由、反骨、セクシーさの象徴です。犬が忠誠を表すとすれば、猫は「誰にも飼い慣らされない存在」として歌われてきました。
Stray Cats「Stray Cat Strut」(1981年)
猫ソングの永遠のアンセム。ブライアン・セッツァー率いるストレイ・キャッツが1981年にリリースしたこの曲は、ロカビリー・リバイバルの旗印となりました。歌詞の主人公は、路地裏を闊歩する野良猫。ゴミ箱を漁り、高級猫を見下ろし、自分の流儀で生きる。その姿は、80年代初頭のパンク〜ロカビリー・シーンの精神そのものでした。
注目すべきは、バンド名自体が「野良猫」であること。ストレイ・キャッツにとって猫は単なるモチーフではなく、バンドのアイデンティティそのものです。グレッチのギターとウッドベースが跳ねるサウンドは、まさに猫が塀の上を軽やかに歩くような軽快さがあります。
The Cure「The Lovecats」(1983年)
ゴシック・ロックの帝王ロバート・スミスが書いた、意外なほど軽やかなポップ・ナンバー。ジャズ風のウッドベースに乗せて「僕たちはラブキャッツ」と歌うこの曲は、恋人同士を猫に喩えたラブソングです。
The Cureの楽曲の中では異色の明るさですが、歌詞をよく読むと「ありのままの動物的な愛」への憧れが描かれています。猫の恋愛に理屈はない。だからこそ美しい。ロバート・スミスの猫観が凝縮された一曲です。
David Bowie「Cat People (Putting Out Fire)」(1982年)
映画『キャット・ピープル』のためにジョルジオ・モロダーと共作したこの曲は、ボウイのディスコグラフィーの中でも異質なダークさを持っています。「火を消して」と繰り返されるサビは、猫の変身譚に重ねた人間の内なる獣性への恐怖と誘惑を歌っています。1983年のアルバム『Let’s Dance』に再録されたバージョンは、ナイル・ロジャースのプロデュースでファンク色が加わり、また違った魅力があります。
The Beatles「Happiness Is a Warm Gun」の猫たち
直接的な猫ソングではありませんが、ジョン・レノンが大の猫好きだったことは有名です。レノンは「猫は世界で最もピュアな生き物のひとつ」と語っており、生涯にわたって複数の猫を飼っていました。ビートルズ解散後のソロ作品「Woman」のレコーディング中も、スタジオに猫がいたというエピソードが残っています。猫好きアーティストの系譜については、なぜクリエイターは猫を飼うのか。漱石、ヘミングウェイ、ピカソの猫もあわせてどうぞ。
J-POPの猫たち
日本のポップ・ミュージックにおける猫は、洋楽とはまったく違う文脈で歌われています。孤独、自由、切なさ、そして「帰ってこない人」のメタファー。日本の猫ソングは、どこか物悲しい。
DISH//「猫」(2017年 / 2020年再注目)
あいみょんが作詞作曲し、DISH//の北村匠海が歌った「猫」は、2020年のTHE FIRST TAKEでの一発撮りパフォーマンスをきっかけに社会現象となりました。YouTube再生回数は3億回を超え、2020年代のJ-POPを代表する猫ソングです。
歌詞に猫はほとんど登場しません。それでもタイトルが「猫」なのは、去っていった恋人を猫に喩えているから。気まぐれで、自由で、帰ってこない。日本人が猫に投影する「愛おしいのにつかめない」感覚が、この曲のすべてです。
スピッツ「猫になりたい」(1994年)
草野マサムネはインタビューで「猫的な存在でありたい」と語ったことがあります。「猫になりたい」は、恋人の膝の上で眠る猫に自分を重ねた、究極の甘えの歌。スピッツ特有の透明感のあるメロディが、猫の体温を感じさせるような親密さを生んでいます。
斉藤和義「歩いて帰ろう」ではなく「猫の額」
斉藤和義の隠れた名曲「猫の額」は、狭い部屋で猫と暮らす日常を淡々と歌った一曲。派手さはありませんが、猫と暮らす人間のリアルな生活感が詰まっています。一人暮らしで猫を飼うという選択。25歳、1Kの猫ライフを考えている人にこそ聴いてほしい曲です。
つじあやの「猫とわたし」
ウクレレの弾き語りで知られるつじあやのが、猫との暮らしをそのまま歌にした一曲。飾らない歌詞と温かいメロディが、猫との何気ない時間の価値を教えてくれます。
ジャズ・クラシックの猫たち
猫と音楽の関係は、ポップスやロックよりもずっと古い歴史を持っています。クラシック作曲家たちは猫の動きや声にインスピレーションを受け、ジャズミュージシャンたちは猫の自由さに自分を重ねてきました。
ロッシーニ「猫の二重唱」
イタリアの作曲家ジョアキーノ・ロッシーニが19世紀前半に作曲したとされるこの声楽曲は、ソプラノ2人が「Miau(ミャウ)」だけで歌い上げるという、ユーモラスな名曲です。実はロッシーニ作ではなく別の作曲家の作品とする説もありますが、猫好き音楽家の間では定番のレパートリー。2匹の猫が屋根の上でケンカしたり、じゃれ合ったりする様子が、2つの声だけで表現されます。
スカルラッティ「猫のフーガ」
18世紀のイタリアの作曲家ドメニコ・スカルラッティのキーボード・ソナタ K.30(通称「猫のフーガ」)は、飼い猫がチェンバロの鍵盤の上を歩いた音から着想を得たという逸話で知られています。真偽は定かではありませんが、不規則な音の跳躍が確かに「猫が鍵盤を踏む」感覚を再現しています。
ジャズと「猫」の深い関係
英語スラング「cat」が「クールな人」を意味するようになったのは、ジャズ・シーンからです。1940年代のビバップ期、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーといったミュージシャンたちは互いを「cat」と呼び合いました。ジャズミュージシャン=cat。この等式は、猫の持つ「自由」「夜行性」「即興的」というイメージとジャズの精神が完全に一致していたことを示しています。
ミュージカル・映画音楽の猫
Andrew Lloyd Webber『CATS』(1981年)
猫と音楽を語るうえで、このミュージカルを避けて通ることはできません。T.S.エリオットの詩集『キャッツ – ポッサムおじさんの猫とつき合う法』を原作に、アンドリュー・ロイド・ウェバーが作曲した『CATS』は、ブロードウェイとウエストエンドで通算1万回以上上演された、ミュージカル史上最大級のヒット作です。
中でも「Memory」は、老猫グリザベラが過去の栄光を回想して歌うバラード。猫の一生を人間の人生に重ね合わせた、普遍的な名曲として世界中で愛されています。2019年の映画版は賛否が分かれましたが、楽曲の力は揺るぎませんでした。猫映画ベスト15。「猫が教えてくれたこと」から「ルドルフ」まででも映画版CATSについて触れています。
「Everybody Wants to Be a Cat」──ディズニー『おしゃれキャット』
1970年のディズニー映画『おしゃれキャット(The Aristocats)』の挿入歌。ジャズ猫のトーマス・オマリーたちが「みんな猫になりたい」と歌うこの曲は、ジャズ=猫というイメージを子どもたちに植えつけた功労者です。スウィングするビッグバンドサウンドと猫たちのアニメーションが、猫とジャズの親和性を完璧に表現しています。
なぜ猫は音楽に選ばれるのか
ここまで20曲以上の猫ソングを見てきましたが、ひとつの疑問が残ります。なぜ、犬でもウサギでもなく、猫なのか。
その理由は、猫が「二面性」の象徴だからだと考えます。甘えるけれど自由。近くにいるけれど手が届かない。音楽、とくに歌詞が表現したいのは感情の揺れであり、猫はまさにその揺れを体現する存在です。
犬は一途すぎて歌にしにくい。鳥は遠すぎる。猫はちょうど「手が届きそうで届かない距離」にいる。この距離感が、メロディに乗せたときに最も心を揺さぶるのでしょう。猫がなぜここまで人を惹きつけるかについては、猫好きの心理学。なぜINFJは猫を好むのかでも深掘りしています。
FAQ
Q. 猫ソングで最も有名な曲は?
世界的な知名度ではミュージカル『CATS』の「Memory」が圧倒的です。日本国内ではDISH//の「猫」がYouTube再生3億回超えで、2020年代を代表する猫ソングとなっています。
Q. 猫が登場するクラシック音楽はありますか?
あります。ロッシーニ(または別の作曲家)の「猫の二重唱」、スカルラッティの「猫のフーガ」、プロコフィエフの「ピーターと狼」(猫の登場パート)などが代表的です。ラヴェルの歌劇「子どもと魔法」にも猫の二重唱シーンがあります。
Q. 猫を飼っていたことで有名なミュージシャンは?
フレディ・マーキュリーは生涯で10匹以上の猫を飼い、ツアー中も電話で猫に話しかけていたことで知られます。ジョン・レノンも猫好きとして有名。日本では坂本龍一が愛猫家として知られ、猫のドキュメンタリー番組のナレーションも担当しました。
まとめ
猫はあらゆる音楽ジャンルに登場します。ロカビリーでは自由の象徴、J-POPでは帰ってこない恋人のメタファー、ジャズではクールさの代名詞、クラシックではユーモアの素材。猫が音楽に選ばれ続ける理由は、その二面性にあります。甘えと自由、親密さと距離感。音楽が表現したい感情の揺れを、猫はそのまま体現しているのです。
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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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