インターネットの歴史は、猫の歴史でもあります。2000年代のLOLcatから、Nyan Cat、Grumpy Cat、そして2024年にSNS流行語大賞1位を獲得した「猫ミーム」ブームまで。なぜ人類は、画面の向こうの猫にこれほど夢中になったのでしょうか。本記事では、猫ミームの系譜を時系列で体系化し、「インターネット=猫」という文化現象の構造を読み解きます。
前史:猫と人間の「ミーム的関係」は150年前から始まっていた
猫ミームの起源は、インターネット以前にさかのぼります。1870年代、イギリスの写真家ハリー・ポインターは、猫を人間のようなポーズで撮影した「ブライトン・キャッツ」シリーズを約200点制作しました。三輪車に乗る猫、ローラースケートをする猫、カメラを構える猫──写真にはユーモラスなキャプションが添えられており、その構造は現代の猫ミームとほぼ同じです。
20世紀初頭には、アメリカの写真家ハリー・ウィッター・フリーズが、人間の衣装を着た猫の写真をポストカードとして販売し、大衆的な人気を博しました。「猫に人格を与えて笑う」という文化の型は、テクノロジーが変わっても一貫して受け継がれてきたのです。
第1波:LOLcatとCaturday(2005〜2008年)
現代の猫ミーム文化は、匿名掲示板4chanから始まりました。2005年、4chanのユーザーが毎週土曜日に猫画像を投稿する「Caturday(キャタデー)」という文化を生み出します。これが、猫+インターネットという化学反応の最初の爆発でした。
2006年には「LOLcat(ロルキャット)」という用語が誕生。猫の画像に、わざと文法を崩した英語(lolspeak)でキャプションをつけるスタイルが確立されます。そして2007年、エリック・ナカガワとカリ・ウネバサミが立ち上げたサイト「I Can Has Cheezburger?」が、LOLcatを一般層にまで広めました。
このサイトは月間1億PVを超えるモンスターメディアに成長し、「ユーザーが猫画像にキャプションをつけて投稿する」という参加型の仕組みが、ミーム文化の原型をつくりました。
LOLcatが生んだもの
- 「lolspeak」という独自のインターネット言語体系
- ユーザー参加型ミームの文化的フォーマット
- 「猫=インターネットの共通言語」という認識の定着
第2波:YouTubeとスター猫の時代(2011〜2019年)
2010年代に入ると、猫ミームは「画像+テキスト」から「動画」へと進化します。そしてこの時代、インターネット史に残るスター猫たちが登場しました。
Nyan Cat(2011年)
2011年4月にYouTubeに投稿された「Nyan Cat」は、ポップタルトの体を持つ猫が虹を残しながら宇宙を飛ぶアニメーションに、日本のポップソングを組み合わせた動画です。シュールさと中毒性で爆発的に拡散し、The Daily Telegraphが「最も人気のあるインターネット猫」と評しました。
Grumpy Cat(2012年〜2019年)
2012年、Redditに投稿された1枚の写真から、不機嫌な表情の猫「Grumpy Cat(本名:ターダー・ソース)」が世界的なアイコンになりました。Facebookフォロワーは1,600万人を超え、映画出演、書籍出版、グッズ展開と、猫ミームがビジネスになることを証明した存在です。2019年に亡くなった際には、世界中のメディアが訃報を報じました。
この時代のその他のスター猫たち
- Lil Bub:遺伝子疾患による独特の外見で人気を博し、ドキュメンタリー映画にもなった猫
- Keyboard Cat:キーボードを弾く猫の動画。失敗動画の「締め」として使われるミームフォーマットを確立
- まる:箱に入る日本の猫。YouTube動画は累計数億回再生を記録し、海外での日本猫ブームの先駆けに
2015年時点で、YouTubeには200万本以上の猫動画がアップロードされていました。猫は、検索エンジンで最も多く検索されるキーワードのひとつとなったのです。
第3波:TikTok時代と日本の猫ミームブーム(2020年代)
2020年代に入り、猫ミームの舞台はTikTokとYouTube Shortsへと移行します。ショート動画のフォーマットは、猫の一瞬の表情や動きを切り取るのに最適でした。
日本における猫ミーム大爆発(2024年)
2024年1月頃から、日本のSNSで「猫ミーム」が爆発的に流行しました。これは、複数の猫動画素材(ハッピーハッピーハッピーキャット、チピチピチャパチャパなど)を組み合わせ、日常のエピソードを猫で再現する動画フォーマットです。
TikTok、YouTube Shorts、X(旧Twitter)を中心に拡散し、イー・ガーディアンが発表した「SNS流行語大賞 2024」で1位に選ばれました。特筆すべきは、2024年春から初夏にかけてピークを迎えた後、同年内にはほぼ見かけなくなったという、ミーム特有の急速な消費サイクルです。
日本の猫ミーム文化には独自の系譜もあります。2000年代の2ちゃんねるで流行した「ギコ猫」、2013〜14年の「宇宙猫」、2018年の「仕事猫」(現場猫)など、各時代にアイコニックな猫ミームが誕生してきました。
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なぜ猫がインターネットを支配したのか──5つの構造的理由
ここからは、猫がネットを支配した理由を構造的に分析します。スタンフォード大学出版局から刊行された『A Unified Theory of Cats on the Internet』をはじめ、複数の研究や論考をもとに整理しました。
1. 生物学的トリガー:赤ちゃんスキーマ
猫の大きな目、小さな鼻、丸い頭は、人間の赤ちゃんの特徴と共通しています。これが進化的な養育本能を刺激し、無意識のうちに「かわいい」「守りたい」という感情を引き起こします。さらに猫の場合、このベビーフェイス特徴が誇張されているため、「超正常刺激(スーパースティミュラス)」として通常以上に強い反応を生むとされています。
2. 心理的効果:デジタルセラピー
猫のオンラインコンテンツを視聴することが、ポジティブな感情と関連しているという研究結果があります。猫動画は一種の「デジタルセラピー」として、ストレス軽減効果を持つ可能性が指摘されています。
3. 文化的共鳴:アウトサイダーの象徴
西洋文化では、猫は何世紀にもわたって「闇」「孤独」「疎外」の象徴でした。一方、インターネット文化を築いたコミュニティ(4chan、Redditなど)は、自らを「アウトサイダー」として定義してきました。この文化的共鳴が、ネット民と猫の結びつきを強化したのです。
4. コンテンツ特性:猫は「ミーム向き」である
猫の予測不能な行動、ツンデレな性格、表情の豊かさは、短尺動画やキャプション付き画像というミームフォーマットとの相性が抜群です。犬が「わかりやすく嬉しい」のに対し、猫の「読めなさ」が解釈の余地を生み、ミームとしての再利用性を高めています。
5. 参加のハードルの低さ
猫は室内で飼われることが多く、スマートフォンで撮影しやすい存在です。誰でも「うちの猫」をコンテンツ化できるという参加のしやすさが、猫ミーム文化の持続的な拡大を支えています。
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猫ミームの未来──AIと猫の新たな関係
2025年以降、AI生成画像・動画の普及により、猫ミームの制作環境はさらに変化しつつあります。AIが生成した「存在しない猫」のミームが登場し、リアルとバーチャルの境界は曖昧になっています。しかし、猫ミーム文化の本質──人間が猫に人格を投影し、笑い、共感し、シェアする──という構造は、150年前のハリー・ポインターの時代から何も変わっていません。
テクノロジーは変わっても、猫は変わらない。だからこそ、インターネットはこれからも猫に支配され続けるのでしょう。
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引用・出典
- E. Nakagawa, K. Unebasami「I Can Has Cheezburger?」(2007年〜)
- Wikipedia「Cats and the Internet」
- Stanford University Press「A Unified Theory of Cats on the Internet」
- Know Your Meme「Cats」「LOLcats」
- Real Sound「“猫ミーム”がSNSで大流行 定期的にバズを起こしてきた歴史を振り返る」(2024年)
- ニコニコ大百科「猫ミーム」
- hyperrhiz「The History & Origin of Cat Memes」
FAQ
Q. 世界で最初の猫ミームは何ですか?
広義では、1870年代にイギリスの写真家ハリー・ポインターが制作した「ブライトン・キャッツ」シリーズが最古の猫ミームとされています。猫をユーモラスなポーズで撮影し、キャプションを添えるという構造は、現代の猫ミームと本質的に同じです。インターネット上では、2005年に4chanで始まった「Caturday」が現代猫ミーム文化の起点とされています。
Q. 猫ミームが犬ミームより多いのはなぜですか?
主な理由は3つあります。第一に、猫の顔が持つ「赤ちゃんスキーマ(大きな目・丸い頭)」が人間の養育本能を強く刺激すること。第二に、猫の予測不能な行動や「ツンデレ」な性格が、ミームとしての解釈の余地と再利用性を高めていること。第三に、室内飼いが多い猫はスマートフォンでの撮影機会が多く、コンテンツ化しやすいことです。
Q. 2024年に日本で流行した「猫ミーム」とは何ですか?
2024年に日本で流行した猫ミームは、複数の猫動画素材(ハッピーキャット、チピチピチャパチャパなど)を組み合わせて日常エピソードを再現するショート動画フォーマットです。TikTokやYouTube Shortsを中心に拡散し、SNS流行語大賞2024で1位を獲得しました。ただし、2024年春〜初夏のピーク後は急速に収束しています。
まとめ
猫ミームの歴史は、1870年代の写真から始まり、2000年代のLOLcat、2010年代のNyan Cat・Grumpy Cat、そして2020年代のTikTok猫ミームブームへと続く、150年のカルチャー史です。猫がインターネットを支配した理由は、生物学的な「かわいさ」の構造、アウトサイダー文化との共鳴、ミームフォーマットとの相性の良さなど、複合的な要因が重なっています。テクノロジーがどれだけ進化しても、人間が猫に人格を投影して笑うという文化の型は変わりません。猫ミームは、インターネット文化そのものの鏡なのです。
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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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