胸ポケットから顔を出す、かわいい白猫。ポケットをめくると、中指を立てている。たったそれだけのデザインが、世界中のスケーターとストリートキッズを虜にしました。
RIPNDIP(リップンディップ)のマスコットキャラクター「Lord Nermal(ロード・ナーマル)」は、ストリートウェアの歴史において最も成功した猫キャラクターのひとつです。2014年の登場からわずか数か月でバイラルヒットを記録し、PUMAとのコラボレーションを実現し、スケートカルチャーを超えてファッションの表舞台に猫を押し上げた。この記事では、RIPNDIPがなぜ「ストリート×猫」の最強ブランドになれたのか、その理由を掘り下げます。
ガレージから始まった反逆──RIPNDIPの誕生
RIPNDIPは2009年、フロリダ州オーランドでスケーターのRyan O’Connor(ライアン・オコナー)によって創業されました。始まりは、スケートキャンプで自分のスケートボードに「RipNDip」と殴り書きしたこと。キャンプの参加者がその文字に興味を持ち、O’Connorは10ドルのTシャツを売り始めます。
父親から借りた500ドルでスクリーンプリンターを購入し、地元のGoodwill(リサイクルショップ)で買ったジャケットやスウェットにプリントを施す。ガレージが工場であり、スケートパークが販売チャネル。広告費ゼロ、ビジネスプランなし。あったのは、仲間と一緒に面白いものをつくりたいというDIY精神だけでした。
ブランド名の「RipNDip」は、スケートボードのトリック用語に由来するとされています。このネーミングからもわかるように、RIPNDIPはあくまでスケートカルチャーの内側から生まれたブランドです。ファッション業界の外側から、ストリートの現場感覚で育った。その出自が、後のブランドアイデンティティを決定づけることになります。
Lord Nermal──「かわいい」と「反抗」を同居させた発明
RIPNDIPを一気にメジャーに押し上げたのが、2014年春に登場したLord Nermalです。
デザインは極めてシンプル。Tシャツの胸ポケットから白い子猫がにっこりと顔を覗かせている。しかしポケットをめくると、その猫は中指を立てている。かわいさと不遜さの同居。見る角度によって意味が反転するこの仕掛けが、スケーターたちの心をつかみました。
キャラクターの名前「Nermal(ナーマル)」は、漫画『ガーフィールド』に登場する「世界一かわいい子猫」を自称するキャラクターと同名です。自分のかわいさを自覚した上で中指を立てる──この二重構造が、Lord Nermalの核心です。デザインを手がけたのは、ニューヨーク在住のアーティスト兼イラストレーター、Jay Lemperle。彼のラフなタッチと、O’Connorのユーモアセンスが化学反応を起こしました。
発売からおよそ5か月後、Lord NermalのTシャツはSNSでバイラルヒットを記録。O’Connor自身が「今でもブランドのベストセラー」と語るこのデザインは、RIPNDIPのアイデンティティそのものになりました。
なぜ「中指猫」がストリートカルチャーにハマったのか
Lord Nermalの成功は偶然ではありません。ストリートカルチャーが求める3つの要素を、一枚のTシャツに凝縮していたからです。
1. 反逆の表現が「かわいい」に包まれていた
中指を立てるという行為は、ストリートカルチャーにおける反骨精神の象徴です。しかしそれを直接的にやると、ただの粗暴になる。Lord Nermalは「猫」というフィルターを通すことで、反逆を笑いに変換しました。ポケットをめくらなければただのかわいい猫。見た人に「気づかせる」というインタラクティブな体験が、SNS時代のシェア欲求と完璧にマッチしたのです。
2. 誰でも理解できるシンプルさ
ストリートブランドの多くは、カルチャーの文脈を理解していないと「読めない」デザインが主流です。しかしLord Nermalは、言語も文化も超えて一瞬で理解できる。猫がかわいい、でも中指を立てている。この単純な構造が、アメリカのスケートパークから東京の原宿、ソウルの弘大まで、グローバルに受け入れられた最大の理由です。
3. 「着る人の態度」を代弁した
Lord Nermalを着るということは、「自分はこういう態度で世界と向き合っている」という宣言になります。真面目に見えて、実はふざけている。かわいく見せかけて、実は従わない。このアティテュードは、スケーターだけでなく、既存の価値観に違和感を持つ若者全般に刺さりました。
PUMAとのコラボ──猫×猫の歴史的共演
RIPNDIPの躍進を象徴するのが、PUMAとの大型コラボレーションです。2023年に初のコレクションがリリースされ、2025年9月にはセカンドドロップが実現しました。
このコラボが話題になった理由のひとつが「猫×猫」という構造です。PUMAのブランドロゴは跳躍するピューマ(猫科動物)。そこにRIPNDIPのLord Nermalが加わることで、スポーツブランドとストリートブランドの猫が共演するという、ファッション史上でも珍しいビジュアルが生まれました。
セカンドドロップでは、Suede XLをベースにしたスニーカーにサイケデリックなNermalビジュアルとタン部分にスタッシュポケットを搭載。さらにInhaleとInverseランナーのカスタムカラーウェイ、オーバーサイズのグラフィックTシャツ、フーディ、ワイドスウェットパンツ、リバーシブルビーニー、ニットベストなど幅広いラインナップが展開されました。ガレージでTシャツを刷っていたブランドが、世界的スポーツメーカーと肩を並べるまでに成長した証です。
ストリートウェアにおける「猫」の系譜
RIPNDIPの成功は、ストリートウェアにおける猫モチーフの地位を決定的に引き上げました。しかし、猫とストリートカルチャーの関係はRIPNDIPだけに始まるものではありません。
日本では、江戸時代の浮世絵師・歌川国芳が猫を擬人化した作品を多数制作し、いわば「猫×ストリートアート」の元祖とも呼べる存在でした。国芳の猫は庶民文化の中でユーモアと風刺を担い、RIPNDIPのLord Nermalと驚くほど通じるものがあります。
ハイファッションの世界でも、GUCCIやLOEWEが猫モチーフのコレクションを展開し、PAUL & JOEの猫柄「ヌネット」はブランドの看板デザインになっています。しかし、ストリートの現場から自然発生的に生まれ、ボトムアップで世界に広がったという点で、RIPNDIPのLord Nermalは唯一無二の存在です。
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RIPNDIPが教えてくれること
RIPNDIPの物語から読み取れるのは、「猫はカルチャーになる」という事実です。
日本では「猫グッズ=ファンシー=女性向け」というイメージが根強く残っています。しかしRIPNDIPは、猫を「反逆」「ユーモア」「アティテュード」の記号として再定義し、世界中の男性が堂々と猫を着る文化をつくりました。500ドルのガレージブランドが、PUMAとコラボするまでに成長した背景には、「猫は弱い」「猫はかわいいだけ」という固定観念を壊し続けた10年以上の蓄積があります。
Lord Nermalは、ポケットの中から世界に中指を立て続けています。それは「既成概念に従わない」というメッセージであり、猫というモチーフが持つ自由さそのものです。
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引用・出典
- RIPNDIP Official「About Us」
- RIPNDIP Official「Lord Nermal Collection」
- PUMA Newsroom「PUMA, RIPNDIP, and Lord Nermal Reignite the Chaos for Drop Two」(2025年)
- Complex「RIPNDIP x Puma Collection 2025 Release Date」(2025年)
- WWD「Ripndip’s Ryan O’Connor Is Skateboarding’s Comedic Relief」
- SkateboardStickers.com「About RIPNDIP Skateboard Brand」
- Skate Review「The History of the RIPNDIP Brand」
- KickflipNation「Exploring Ripndip’s Middle Finger Cat’s Cultural Influence」
FAQ
Q. RIPNDIPの猫キャラクター「Lord Nermal」の名前の由来は?
Lord Nermalの名前は、Jim Davis原作の漫画『ガーフィールド』に登場する子猫キャラクター「Nermal」に由来しています。ガーフィールドのNermalは「世界一かわいい子猫」を自称するキャラクターで、RIPNDIPはその名前を借りつつ、中指を立てるという反逆的な要素を加えました。「かわいさの自覚+反抗」という二重構造が、Lord Nermalの本質です。
Q. RIPNDIPはどこで買えますか?日本での入手方法は?
RIPNDIPの公式オンラインストア(ripndipclothing.com)から直接購入できるほか、日本国内ではセレクトショップやスケートショップで取り扱いがあります。Amazonや楽天市場でも一部商品が流通していますが、偽物も多く出回っているため、正規取扱店からの購入をおすすめします。PUMA x RIPNDIPのコラボアイテムはPUMA公式サイトや直営店でも購入可能です。
Q. RIPNDIPはスケーターじゃなくても着ていいブランドですか?
もちろんです。RIPNDIPは創業こそスケートカルチャーから始まりましたが、現在はストリートファッション全般に広がったブランドです。Lord Nermalのグラフィックは猫好き・ユーモア好きの人にも刺さるデザインで、スケートをしない層にも幅広く支持されています。「猫が好き」「ちょっとふざけたファッションが好き」という人なら、RIPNDIPは最適な選択肢のひとつです。
まとめ
RIPNDIPは、フロリダのガレージから生まれたスケートブランドです。2014年に登場したマスコットキャラクター「Lord Nermal」──胸ポケットから中指を立てて覗く白猫──が世界中でバイラルヒットを記録し、ストリートウェアにおける「猫」の地位を決定的に変えました。かわいさと反骨精神の同居、言語を超えるシンプルさ、着る人のアティテュードを代弁する力。この3つが、RIPNDIPを「ストリート×猫」の最強ブランドに押し上げた理由です。猫モチーフは「ファンシー」ではなく「カルチャー」になりうる。Lord Nermalは、ポケットの中からそれを証明し続けています。
URAYAMA NO NEKOは、猫カルチャーを発信するブランドです。オリジナルグッズはこちら → SHOP
執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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