MENU

台湾・猴硐(ホウトン)猫村──炭鉱の町が猫の聖地になるまで

台北から電車で約1時間。新北市瑞芳区にある猴硐(ホウトン)は、かつて台湾有数の炭鉱の町でした。最盛期には6,000人以上が暮らし、年間22万トンの石炭を産出していたこの町は、1990年の閉山とともに急速に衰退します。若者は去り、住民は高齢化し、残されたのは錆びた坑道と、炭鉱時代からネズミ退治のために飼われていた猫たちでした。そして2008年、一枚の猫の写真がインターネットに投稿されたことで、この町の運命は一変します。

目次

炭鉱と猫──なぜ猴硐に猫がいたのか

猴硐に猫がいた理由は、炭鉱にあります。石炭を貯蔵する倉庫にはネズミが集まり、ネズミは坑道の木材を齧り、電気配線を傷つけます。炭鉱にとってネズミは安全上の脅威でした。そのため、多くの炭鉱集落では猫が「労働者」として飼われていたのです。

猴硐の場合、炭鉱が閉山した後も猫たちは町に残りました。住民が去っても、猫は去らない。空き家や廃墟が猫の住処になり、残された住民が餌を与え続けたことで、猫は繁殖し、100匹以上の猫が暮らす集落が自然と形成されていきました。

興味深いのは、猴硐の住民たちが猫を「迷惑な野良猫」として扱わなかったことです。炭鉱時代から猫と共に暮らしてきた記憶が、住民の中に生きていたのでしょう。猫は炭鉱の仲間であり、町の一部だった。その感覚が、後の「猫村」としての発展の土壌になります。

一枚の写真が変えた──2008年の転機

2008年、猫好きの写真家・簡佩玲(ジェン・ペイリン)氏が猴硐を訪れ、猫たちの写真をブログに投稿しました。廃墟と猫が織りなす独特の風景は瞬く間にSNSで拡散され、台湾のネットユーザーの間で「猫村」として話題になります。

簡氏はただ写真を投稿しただけではありません。猫の保護と町の活性化を同時に実現するための活動を始め、地元のボランティアや行政と連携して猫村の整備を推進しました。猫の避妊・去勢手術の実施、餌やりの適正化、観光客向けの案内板の設置。一人のカメラマンの行動が、過疎の町を猫の聖地に変えていったのです。

2009年には台湾鉄道の猴硐駅が「猫村」をテーマにリニューアルされ、駅舎に猫のイラストや猫型の案内板が設置されました。駅のホームから猫村への導線が整備されたことで、観光客の流入が一気に加速します。

CNN「世界6大猫スポット」選出──国際的な猫の聖地へ

猴硐の名が世界に知られるきっかけとなったのが、2013年のCNN「世界6大猫スポット」への選出です。日本の田代島やトルコのイスタンブールと並んで紹介されたことで、海外からの観光客が急増しました。

現在、猴硐猫村には年間100万人以上の観光客が訪れるとされています。台北からのアクセスの良さ(台鉄で約1時間、運賃は片道約250円)も大きな要因ですが、何より猫たちの「自然体」が訪問者を惹きつけています。

猴硐の猫は、観光客に媚びません。触らせてくれる猫もいますが、多くは日向で寝ていたり、石段の上から見下ろしていたり、商店の軒先で自由気ままに過ごしています。「猫に会いに行く」のではなく、「猫の暮らしにお邪魔する」感覚。これが猴硐の最大の魅力です。

猫村の一日──実際に訪れるとどう過ごせるのか

猴硐猫村の楽しみ方を時間帯別に紹介します。

午前(9:00〜12:00)──猫が活発な時間帯

猫が最も活動的なのは朝です。駅を出て線路を渡った先の集落エリアでは、朝食後に日光浴をする猫たちに出会えます。カメラ好きなら、午前中の柔らかい光の中で撮影するのがベスト。人出もまだ少なく、猫とゆっくり向き合えます。

午後(12:00〜15:00)──カフェと炭鉱遺跡めぐり

昼過ぎは猫が昼寝に入る時間帯。この時間は村内のカフェで休憩したり、炭鉱遺跡を見学するのがおすすめです。日本統治時代に建設された選炭場の遺構は、産業遺産としても見応えがあります。カフェには看板猫がいることが多く、エアコンの効いた店内で猫と涼むのも一興です。

夕方(15:00〜17:00)──猫が再び動き出す

夕方になると猫たちが再び活動を始めます。住民が餌を与える時間帯(16時前後が多い)には、普段は姿を見せない猫も集まってくるため、猫の数が最も多くなるタイミングです。帰りの電車の時間を考慮しつつ、最後の撮影タイムを楽しみましょう。

猫村が抱える課題──観光と猫の福祉の両立

猴硐猫村は成功物語として語られることが多いですが、課題もあります。

  • 観光客のマナー問題: フラッシュ撮影、猫の追いかけ回し、人間用のスナック菓子を与える行為が問題になっています。村には「猫を追いかけないでください」「フラッシュ禁止」の看板がありますが、全員が守っているわけではありません
  • 猫の遺棄問題: 「猫村なら面倒を見てもらえる」と考え、飼えなくなった猫を猴硐に捨てに来る人がいます。これは猫の個体数管理を困難にし、病気の持ち込みリスクも高めます
  • 高齢化する世話人: 猫の世話を担っている住民の多くは高齢者です。次世代の担い手の確保は、猫村の持続可能性に直結する課題です
  • TNR活動の継続: 猫の不妊手術(TNR: Trap-Neuter-Return)はボランティア団体が実施していますが、費用と人手の確保は常に課題です

これらの課題に対して、地元のボランティア団体「猴硐猫友会」は、観光客へのマナー啓発、定期的なTNR活動、猫の健康チェック、遺棄猫の一時保護と里親探しなどの活動を続けています。

猴硐が教えてくれること──「猫で町おこし」のリアル

猴硐の事例は、日本の地方自治体にとっても示唆に富んでいます。田代島、青島、相島など、日本にも「猫島」「猫の町」と呼ばれる場所は複数ありますが、猴硐と共通する構造があります。

  • 産業の衰退 → 過疎化 → 猫の繁殖 → SNSでの発見 → 観光地化

このサイクルは偶然のように見えて、いくつかの条件が揃わなければ成立しません。猫がいるだけでは足りない。猫を大切に思う住民がいること。その価値を発信する人がいること。行政が協力すること。そして何より、観光と猫の福祉を天秤にかけたとき、猫の側に立つ覚悟があること。猴硐はそのすべてが揃った稀有な成功例です。

日本の猫島については日本の猫島完全ガイド。人口より猫が多い島の地図で、世界の猫文化の比較は世界の猫文化比較──日本・トルコ・エジプト・イギリス・台湾。同じ「猫好き」でも、こんなに違うで詳しく紹介しています。トルコ・イスタンブールの猫事情はイスタンブールは猫の首都だった。世界一猫に優しい街の記録をご覧ください。

猴硐猫村へのアクセス情報

項目 詳細
最寄り駅 台鉄「猴硐駅」(宜蘭線)
台北からの所要時間 約50〜70分(台北駅から直通あり)
運賃 片道56元(約250円)
入場料 無料
所要時間 2〜3時間あれば十分
おすすめの時期 春(3〜5月)と秋(10〜11月)。夏は猛暑、冬は雨が多い
組み合わせ 九份(ジウフェン)と同日訪問が可能(同じ瑞芳区内)

FAQ

Q. 猴硐猫村には何匹くらいの猫がいますか?

正確な数は把握されていませんが、100〜200匹程度とされています。TNR活動によって個体数はある程度管理されていますが、遺棄猫の問題もあり、数は変動します。訪問時に出会える猫の数は、時間帯や天候によって大きく異なります。午前中と夕方が最も多くの猫に会えるタイミングです。

Q. 猴硐猫村で猫に触ることはできますか?

猫から近づいてきた場合は触れることができますが、無理に触ろうとするのはNGです。猴硐の猫は人馴れしている個体が多いですが、あくまで野良猫(地域猫)です。手をゆっくり差し出して、猫の反応を見てから触るようにしましょう。追いかけたり、抱き上げたりする行為は禁止されています。

Q. 九份と猴硐は同じ日に回れますか?

はい、十分に可能です。猴硐と九份は同じ瑞芳区内にあり、瑞芳駅で乗り換えれば電車とバスで移動できます。おすすめのルートは、午前中に猴硐猫村を散策し、午後から九份に移動して夕暮れの提灯を楽しむコースです。猴硐は2〜3時間あれば十分回れるため、一日で両方を満喫できます。

まとめ

猴硐猫村は、炭鉱の閉山という衰退の中から、猫と人間の関係を軸に再生した場所です。一人のカメラマンの発信、住民の猫への愛情、行政の協力、ボランティアの地道な活動。これらが重なったからこそ、過疎の町は年間100万人が訪れる猫の聖地に生まれ変わりました。しかし猴硐が本当に教えてくれるのは、「猫で町おこしができる」ということではなく、「猫を大切にし続けた町だけが、猫に救われる」ということです。

URAYAMA NO NEKOは、猫カルチャーを発信するブランドです。オリジナルグッズはこちら → SHOP

執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次