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猫と音楽の意外な関係。猫が好む周波数と、猫を歌った名曲たち

猫は音楽を聴いているのか。答えはイエスです。ただし、人間と同じようには聴いていません。

猫の聴覚は人間よりはるかに広い周波数帯をカバーしており、特に高周波数の音に敏感です。一方で、人間が「心地よい」と感じる音楽が、猫にとっても心地よいとは限らない。この記事では、科学的な視点から「猫が好む音」を解説するとともに、音楽史の中で猫がどのように歌われ、演奏され、インスピレーションの源になってきたかを辿ります。

目次

猫の聴覚 ── 人間とはまるで違う音の世界

猫が聞こえる周波数帯

人間の可聴域は約20Hz〜20,000Hzです。一方、猫の可聴域は約48Hz〜85,000Hz。上限は人間の約4倍。つまり猫は、人間には聞こえない超高音を日常的に聞いています。

なぜ猫の聴覚はこれほど高周波数に対応しているのか。理由は狩猟本能にあります。ネズミや小鳥が発するコミュニケーション音は、人間には聞こえない高周波数帯(20,000Hz以上)に集中しています。猫は進化の過程で、獲物の声を聞き取れるように聴覚を発達させたのです。

猫の耳の構造

猫の耳は180度回転することができます。左右の耳を独立に動かし、音源の方向を正確に特定する。この能力はパラボラアンテナに例えられますが、実際の精度はそれ以上です。猫の耳には30以上の筋肉があり(人間は6つ)、微細な音の方向変化を捉えます。

つまり猫は、私たちがスピーカーから音楽を流しているとき、音楽だけでなく、スピーカーの位置、部屋の反響、窓の外の鳥の声、隣の部屋の冷蔵庫のモーター音を同時に聞いています。「猫が音楽を聴いている」というのは、人間の感覚で言えば「音楽を含む音の風景全体を体験している」に近いのです。

「猫専用音楽」の科学 ── デイヴィッド・テイの研究

2015年、ウィスコンシン大学マディソン校のチャールズ・スノードン教授と作曲家デイヴィッド・テイは、共同で「猫のための音楽」を制作し、学術誌に論文を発表しました。この研究は猫と音楽の関係を科学的に実証した画期的なものです。

研究の内容

テイとスノードンは、以下の仮説に基づいて猫専用の音楽を作曲しました。

  • 猫の声域に合わせた周波数 ── 猫が発するゴロゴロ音(25〜50Hz)や授乳時の吸啜音を基調にする
  • 猫の心拍数に合わせたテンポ ── 猫の安静時心拍数は120〜140bpm。人間の音楽の標準テンポ(60〜120bpm)より速い
  • 猫のコミュニケーション音を組み込む ── 鳥のさえずりに似た高周波音や、猫同士の呼びかけ音を楽曲に織り交ぜる

結果

47匹の家猫を対象にした実験の結果、猫専用音楽を聴かせた場合、人間用のクラシック音楽(バッハの「G線上のアリア」やフォーレの「エレジー」)を聴かせた場合と比較して、猫がスピーカーに近づく頻度が有意に高く、ゴロゴロ音を発する確率も高かったと報告されています。

この研究をもとに、テイは「Music for Cats」というアルバムをリリースしました。楽曲は猫のゴロゴロ音のような低音のドローンと、鳥の声を模した高音のメロディーで構成されています。Spotifyでも配信されており、2026年現在も猫の飼い主の間で根強い人気があります。

クラシック音楽と猫 ── 作曲家たちの猫愛

スカルラッティ「猫のフーガ」

18世紀イタリアの作曲家ドメニコ・スカルラッティの鍵盤ソナタK.30(L.499)は、通称「猫のフーガ」と呼ばれています。言い伝えによれば、スカルラッティの飼い猫プルチネッラがチェンバロの鍵盤の上を歩いた音が着想の元になったとされています。

実際にこの曲を聴くと、冒頭の不規則で半音階的なフレーズが、確かに猫が鍵盤を踏んだような音列に聞こえます。偶然の音を音楽に昇華する。猫と作曲家の共作と言えるかもしれません。

ショパンと猫

フレデリック・ショパンのワルツ第3番(通称「猫のワルツ」Op.34-3)は、ショパンの恋人ジョルジュ・サンドの飼い猫が、ピアノの上を歩き回る姿にインスピレーションを得たとされています。急速で軽やかな旋律は、猫がピアノの鍵盤の上を駆け抜けるイメージそのものです。

ショパン自身が猫好きだったかどうかは議論がありますが、少なくともサンドとの同居生活において、猫は日常の風景の一部だったことは間違いありません。

ラヴェル「子供と魔法」

モーリス・ラヴェルのオペラ『子供と魔法』(1925年)には、2匹の猫のデュエットシーンがあります。メゾソプラノとバリトンが「ミャオ」「ムルナオ」と猫語で歌う場面は、オペラ史上最もユニークな「猫の歌」です。ラヴェルは猫の発声──ピッチの揺れ、ビブラートの不規則さ──を楽譜上で精密に再現しています。

ポピュラー音楽の中の猫 ── 名曲たち

「Stray Cat Strut」── Stray Cats(1981年)

ロカビリーバンド、ストレイ・キャッツの代表曲。路地裏をうろつく野良猫の気ままさを、ブライアン・セッツァーのギターが表現しています。猫のスワッガー(堂々とした歩き方)をそのまま音楽にした一曲。猫のカッコよさを「音」で伝えた最初のロックソングかもしれません。

「The Lovecats」── The Cure(1983年)

ロバート・スミスが書いた、猫的な恋愛の歌。ウッドベースの弾むリズムとスミスの甘い声が、猫の気まぐれな愛情を表現しています。The Cureの楽曲の中では異色の明るさですが、その「軽さ」がかえって猫らしい。

「猫」── DISH//(2017年)

北村匠海がボーカルを務めるDISH//の代表曲。あいみょんが作詞作曲を手がけ、猫のように自由で掴みどころのない相手への想いを歌っています。2020年にTikTokで再ブレイクし、MVの再生回数は5億回を超えました。日本のポップスにおける「猫=自由で気まぐれな存在」というイメージを、若い世代に決定づけた一曲です。

「ノルウェイの森」── The Beatles(1965年)

直接的な猫の歌ではありませんが、村上春樹が小説のタイトルに引用したことで、「猫的な雰囲気を持つ音楽」として猫カルチャーの文脈でしばしば言及されます。ジョン・レノンの歌う孤独とシタールの異質な音色が、猫の持つミステリアスな雰囲気と重なるのでしょう。

「Memory」── ミュージカル『Cats』(1981年)

アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲。T.S.エリオットの詩集を原作とするミュージカル『Cats』のクライマックスで、老猫グリザベラが歌うナンバー。初演以来40年以上歌い継がれ、ミュージカル史上最も有名な楽曲の一つです。

「Memory」が特別なのは、この歌が猫の「老い」と「孤独」を歌っている点です。華やかだった若い頃の記憶と、今の孤独。猫の歌でありながら、すべての「かつて美しかったもの」への哀歌。バーブラ・ストライサンド、セリーヌ・ディオンなど多くのアーティストがカバーしています。

猫に音楽を聴かせるとき ── 実践的なヒント

研究結果を踏まえ、猫に音楽を聴かせるときのポイントをまとめます。

  • 音量は小さめに ── 猫の聴覚は人間より遥かに鋭い。人間にとって「ちょうどいい」音量は、猫にとっては「うるさい」可能性がある
  • 高音域の強い音楽は避ける ── シンバルの連打やディストーションギターは、猫にとって不快な周波数帯を含む
  • 一定のテンポの音楽を選ぶ ── 急激な音量変化や不規則なリズムは猫を驚かせる。アンビエント、ボサノバ、ゆったりしたジャズが比較的猫に合う
  • 猫の反応を観察する ── 耳を後ろに倒す、その場を離れる、しっぽを激しく振るのは不快のサイン。リラックスして目を細める、ゴロゴロ言うのは快適のサイン
  • 猫専用音楽を試してみる ── Spotifyで「Music for Cats」や「Cat Calm」で検索すると、猫向けにデザインされたプレイリストが見つかる

猫の行動の科学的な背景については猫のゴロゴロ音の科学。20〜50Hzの低周波が人間を癒す理由、猫の不思議な行動パターンについては猫の謎行動15選。トイレハイからゼロ重力猫まで科学で解説も参考になります。

なぜ音楽家は猫を愛するのか

スカルラッティ、ショパン、ラヴェル、ジョン・レノン、フレディ・マーキュリー、エド・シーラン。時代を超えて、音楽家には猫好きが多い。なぜでしょうか。

一つの仮説は、「音楽と猫の時間感覚の親和性」です。音楽を作る行為は、時間の中に構造を見出す行為です。猫もまた、独自の時間感覚で生きている。人間の生活リズムとは違う、猫だけの時間。音楽家はその「異なるリズム」に共鳴するのかもしれません。

もう一つの仮説は、猫の「沈黙」にあります。犬は吠えますが、猫は基本的に静かです。音楽家にとって沈黙は、音楽の一部です。休符がなければ旋律は成立しない。猫という「静かな存在」が、音楽家の創作空間において、一種の「休符」の役割を果たしているのかもしれません。

フレディ・マーキュリーはツアー先から愛猫に電話をかけていたと言われています。エド・シーランは猫のInstagramアカウントを運営し、フォロワー数は30万を超えています。音楽と猫の親密な関係は、2026年の今も続いています。クリエイターと猫の関係についてはなぜクリエイターは猫を飼うのか。漱石、ヘミングウェイ、ピカソの猫でも掘り下げています。

FAQ

Q. 猫にクラシック音楽を聴かせるのは効果がありますか?

一概には言えません。ウィスコンシン大学の研究では、人間用のクラシック音楽に対する猫の反応は「無関心」に近いという結果が出ています。ただし、低音域中心で一定テンポの楽曲(バッハの「ゴールドベルク変奏曲」など)は、猫がリラックスする傾向があるという報告もあります。猫によって好みが異なるため、複数のジャンルを試して反応を観察するのが最善です。

Q. 猫がピアノの鍵盤を踏む動画が人気ですが、猫は本当にピアノが好きなのですか?

猫がピアノに近づく理由は「音楽が好き」というよりも、「自分の動作に対して即座にフィードバック(音)がある」ことへの興味が大きいと考えられています。猫は因果関係の学習が得意な動物で、「鍵盤を踏む→音が出る」という関係を認識し、能動的に音を出そうとします。それが「ピアノを弾く猫」に見えるのです。

Q. 猫が嫌がる音楽はありますか?

一般的に、突然の大きな音、高周波の連続音(金属的な音)、不規則なリズムは猫にストレスを与えるとされています。具体的には、ヘビーメタル、ハードコアテクノ、映画のサスペンスシーンのBGMなどが該当します。猫が耳を伏せたり、部屋を出て行ったりする場合は、音楽を切り替えるか音量を下げてください。

まとめ

猫と音楽の関係は、科学と文化の両面から驚くほど豊かです。猫は人間とは異なる聴覚で世界を体験しており、「猫のための音楽」は科学的に成立する。一方で音楽の歴史には、スカルラッティの鍵盤を歩いた猫からストレイ・キャッツのロカビリーまで、猫にインスピレーションを受けた楽曲が数多く存在します。猫が好む音を知ることは、猫の世界を理解する一つの入口です。

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執筆:URAYAMA NO NEKO / Tetsu Onodera

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